だから、こちらは常に織田の様子を窺い続けている。そして触らぬ神に祟りなしと言う事もあり、こちらから織田に仕掛けると言う考えは毛頭無かったが。
わらわが困惑を隠しきれずにいると、今川はバッと扇を開き、口元を隠しながら「ほほほ」と、嫋やかに公家らしく笑う。
「実はのぉ。こちらにとっても織田は目の上のたんこぶで、煩わしい存在でなぁ。度々、わが領地を攻め入るし、嫌な存在なのじゃ。上洛する際も、邪魔でしかなくてのぉ」
最後にポロリと零された言葉に、成程そっちが狙いじゃなと思うが。わらわは口を挟まず、言葉に耳を傾ける。
「そろそろ思い上がった若僧を討つ時が来たのじゃよ。共に織田を討とうではないかえ。先に攻め入れば、万全を整わせる事もないじゃろうて」
上機嫌でヒラヒラと扇を煽ぎ始め、目をスッと細めてわらわを見据えた。
今川と共に織田を討つ。
これは確かに良い話であろう。今川軍が加わるとなると、兵の数は膨大になる。三国を治める大名とあって、兵士の数は美張の人口と同じと言って良い程じゃ。故に、数の利はこちらに傾くであろうが。
失敗した時、反撃を食らい、まっさきに落とされるのは美張であろう。今川の逃げ道用に、わらわ達が壁となる構図になりやすい。
そしてこの話には、裏切りがあると言う可能性も捨てきれない。悲しきかな、この戦乱の世において裏切りはつきもの。
そう考えると。今川の兵力が抜ければ、少数の兵で立ち向かわねばならなくなる。そうなれば、切り抜ける事は難しいだろう。
そこまで美張は強くない。織田とまともに当たれば、確実に領地は燃え、皆死んでしまう。あの美しい景色も、安穏とした美張で暮らす民の姿も見る影無くなってしまうだろう。
つまり危うい均衡だとしても、織田と関係が保てているのならば。美張国がこの申し出に乗る必要はあまりない。
何も小国の美張ではなくても、今川には他に味方が幾らでもあるであろうに。
「ほっほっ、織田を攻め入る気にはならぬか?」
渋面を作りながら、悶々と考え続けていると。飄々とした言葉が投げかけられた。
わらわはその問いかけに対して、ふうと短く息を吐いてから重たい口を開く。
「正直に申し上げますると。こちらからは仕掛けたくない、と言うのがありまする」
わらわが難色を示した瞬間に、能の小面の様な表情が少しばかり崩れた。
わらわが困惑を隠しきれずにいると、今川はバッと扇を開き、口元を隠しながら「ほほほ」と、嫋やかに公家らしく笑う。
「実はのぉ。こちらにとっても織田は目の上のたんこぶで、煩わしい存在でなぁ。度々、わが領地を攻め入るし、嫌な存在なのじゃ。上洛する際も、邪魔でしかなくてのぉ」
最後にポロリと零された言葉に、成程そっちが狙いじゃなと思うが。わらわは口を挟まず、言葉に耳を傾ける。
「そろそろ思い上がった若僧を討つ時が来たのじゃよ。共に織田を討とうではないかえ。先に攻め入れば、万全を整わせる事もないじゃろうて」
上機嫌でヒラヒラと扇を煽ぎ始め、目をスッと細めてわらわを見据えた。
今川と共に織田を討つ。
これは確かに良い話であろう。今川軍が加わるとなると、兵の数は膨大になる。三国を治める大名とあって、兵士の数は美張の人口と同じと言って良い程じゃ。故に、数の利はこちらに傾くであろうが。
失敗した時、反撃を食らい、まっさきに落とされるのは美張であろう。今川の逃げ道用に、わらわ達が壁となる構図になりやすい。
そしてこの話には、裏切りがあると言う可能性も捨てきれない。悲しきかな、この戦乱の世において裏切りはつきもの。
そう考えると。今川の兵力が抜ければ、少数の兵で立ち向かわねばならなくなる。そうなれば、切り抜ける事は難しいだろう。
そこまで美張は強くない。織田とまともに当たれば、確実に領地は燃え、皆死んでしまう。あの美しい景色も、安穏とした美張で暮らす民の姿も見る影無くなってしまうだろう。
つまり危うい均衡だとしても、織田と関係が保てているのならば。美張国がこの申し出に乗る必要はあまりない。
何も小国の美張ではなくても、今川には他に味方が幾らでもあるであろうに。
「ほっほっ、織田を攻め入る気にはならぬか?」
渋面を作りながら、悶々と考え続けていると。飄々とした言葉が投げかけられた。
わらわはその問いかけに対して、ふうと短く息を吐いてから重たい口を開く。
「正直に申し上げますると。こちらからは仕掛けたくない、と言うのがありまする」
わらわが難色を示した瞬間に、能の小面の様な表情が少しばかり崩れた。



