そして次元に穴を開け、親方様と奥方様がおわす美張へ、流星の如く飛んでいく。
あの女は、俺の大切なものを奪う事に固執している。それはものだけではなく、居場所ですらも、だ。
親方様と奥方様を手にかけたのは、恐らくその為。奴の狙いは、姫に憎しみを抱かせ、姫に俺を排斥させる事だ。
そんな最低最悪の策を、奴は巡らせている。俺をここに呼びつけた時から、奴の最低最悪な策は始まっているのだ。
そうさせてたまるか。今からでも、あの女の策を粉々に潰してやる。
もう二度と、奴の敷いた軌道には乗らない。暇つぶしと言う、最低最悪の行いで、俺の大切なものを奪われてたまるか。
俺が守る、姫を。美張を。それが姫の側仕えとして、京としての役目だ。
グッと拳を堅く作り、唇を強く噛みしめながら飛んでいく。その時、口の中では鉄分の苦い味が広がっていた。
・・・・・・・
わらわは目の前に座っている公家顔を見てから、すぐに目を畳の網目に落とす。
三河に入り、すぐに会う事が出来た今川治部大輔義元だが。
第一印象は、噂通りの人だ。
武士でありながら、公家に憧れを抱き、公家の位置づけを得た戦国大名。公家の衣服を身に纏い、お歯黒を塗り、顔は麻呂の化粧を施している。武士の手とは思えぬ程、細い指でパチンパチンと閉じて開いてを繰り返している金色の扇。
武士でありながら、この佇まいとは。
わらわはゆっくりと歩き、今川の近くまで進んで行く。そして深々と叩頭し、「美張の千和姫にございまする。お目通り叶い、光栄にございまする」と言った。
「面をあげよぉ。よう来てくれたなぁ、美張の戦姫殿ぉ」
本当に男だろうかと疑る様な高い声音で、ゆっくりと間延びしている声で告げられる。少々煩わしく感じる声に、わらわは「かたじけのうございます」と答えてから、頭を上げた。
「しかしのぉ。戦姫がかように美しい姫君だとはなぁ」
にこやかに言われるが、目が全く笑っていなかった。
わらわを品定めしているのか、それとも別の思惑があるのか。全く考えが見えない、真っ黒の瞳。こちらが真意を覗き込んでいる様だが、実はこちらが堕とされ、心の中を見透かされている様に感じる。
成程。親方様が仰っていた「腹の内が読めない」と言うのは、まことじゃな。
あの女は、俺の大切なものを奪う事に固執している。それはものだけではなく、居場所ですらも、だ。
親方様と奥方様を手にかけたのは、恐らくその為。奴の狙いは、姫に憎しみを抱かせ、姫に俺を排斥させる事だ。
そんな最低最悪の策を、奴は巡らせている。俺をここに呼びつけた時から、奴の最低最悪な策は始まっているのだ。
そうさせてたまるか。今からでも、あの女の策を粉々に潰してやる。
もう二度と、奴の敷いた軌道には乗らない。暇つぶしと言う、最低最悪の行いで、俺の大切なものを奪われてたまるか。
俺が守る、姫を。美張を。それが姫の側仕えとして、京としての役目だ。
グッと拳を堅く作り、唇を強く噛みしめながら飛んでいく。その時、口の中では鉄分の苦い味が広がっていた。
・・・・・・・
わらわは目の前に座っている公家顔を見てから、すぐに目を畳の網目に落とす。
三河に入り、すぐに会う事が出来た今川治部大輔義元だが。
第一印象は、噂通りの人だ。
武士でありながら、公家に憧れを抱き、公家の位置づけを得た戦国大名。公家の衣服を身に纏い、お歯黒を塗り、顔は麻呂の化粧を施している。武士の手とは思えぬ程、細い指でパチンパチンと閉じて開いてを繰り返している金色の扇。
武士でありながら、この佇まいとは。
わらわはゆっくりと歩き、今川の近くまで進んで行く。そして深々と叩頭し、「美張の千和姫にございまする。お目通り叶い、光栄にございまする」と言った。
「面をあげよぉ。よう来てくれたなぁ、美張の戦姫殿ぉ」
本当に男だろうかと疑る様な高い声音で、ゆっくりと間延びしている声で告げられる。少々煩わしく感じる声に、わらわは「かたじけのうございます」と答えてから、頭を上げた。
「しかしのぉ。戦姫がかように美しい姫君だとはなぁ」
にこやかに言われるが、目が全く笑っていなかった。
わらわを品定めしているのか、それとも別の思惑があるのか。全く考えが見えない、真っ黒の瞳。こちらが真意を覗き込んでいる様だが、実はこちらが堕とされ、心の中を見透かされている様に感じる。
成程。親方様が仰っていた「腹の内が読めない」と言うのは、まことじゃな。



