戦妖記~小国の戦姫~

 だが、その言葉に怒りは湧き上がらなかった。嫌な予感が、俺の沸騰していた怒りを一気に消していっているからだ。
 段々と自分から、血の気が失われていくのを感じる。まさかと言う焦りも台頭してきて、ひゅーっとか細い呼吸が口から漏れ出した。
 青ざめていく一方の俺に対し、奴は妖怪の王に相応しい笑みを浮かべ言葉を続ける。
「美張が妖怪に攻め入られないのは、お前と言う存在のおかげじゃろ?それが無くなれば、どうなるかのぉ」
「美張に何をするつもりだ!」
 猛々しく叫ぶと、奴からハハハッと狂気的な高笑いが上がった。
「何、簡単な事じゃわ。織田信長を唆し、美張を攻め落とそうとするだけぞ。全妖怪共もわらわの命で、同日に襲う事になっておるからのぉ。あんな小国が、織田信長勢と妖怪勢を相手取るのは骨が折れる所の話ではないのぉ」
「なっ!?」
 思わぬ言葉に愕然とし、俺はその場に恐怖で立ちすくむ。
 美張を攻め落とす?織田信長と妖怪共が?なぜ大人しかった織田勢が、急に攻め落とそうと動きだす?なぜだ?織田信長を唆した、とはどういう事だ?
 目を白黒させながら、頭を尋常ではない速さで回転させ、事の状況を掴もうとする。
「妖怪だけに喰わすのは勿体なかろう?わらわは人の争いも見たくてのぉ、醜い姿をさらしてくれれば良いなと思うてな?面白き事になるであろうと期待を込めて、織田を筋書きに組み込んだのじゃ」
 ニコリと妖艶な笑みで微笑む妖王に、俺は顔を青ざめさせながら、グッと拳を作る。
「そうまでして、美張を落としたい理由はなんだ。俺が居るから美張を狙うのか」
 憎々しげに言葉をぶつけると、妖王はパタパタと扇で煽ぎながら、フフフと蠱惑的に笑う。
「玩具の分際で、随分自惚れているものよの。わらわは言うたぞ、ただの退屈しのぎじゃと。ま、でも・・・そうじゃなぁ。お前の悲嘆に暮れる顔、絶望に落ちる顔を、もう一度見たかったのもあるかのぉ。お前が大切と思っているものを壊すのは、げに楽しき事じゃからのぉ」
 その瞬間、俺の中の心に青色の炎がボッと灯り、大激怒に支配される。
 そして妖王の前にバッと瞬間移動し、狐火を直接当てに行く。不意を突いたはずだが、俺の狐火はバチンと開かれた扇で止められた。
「傲慢な奴め、狐火は雑魚に対して使う術じゃわ。無礼者めが」