戦妖記~小国の戦姫~

 ニヤリとほくそ笑まれながら問われるが。俺は何も言い返さず、この女の腹の内を探り続けた。
 この女にとって、俺は用済みの存在のはず。故に、あんな事をするなんておかしいとは思っていたが。それを逆手に、俺に何かをさせるつもりか?そうでなければ、今更俺を呼びつける理由がない。
 この女が狙っているものはなんだ、目的はなんだ?
「疑り深いのぉ。ま、そうでなければ面白みがないか」
 ハッと鼻で軽く笑うと、妖王はパタパタと口元を煽いだ。
「のらりくらりとはぐらかし続けていないで、いい加減吐いたらどうだ。お前とは、顔を長く付き合わせたくない」
 冷淡に告げると、妖王は「それはこちらとて同じぞ」と冷笑を浮かべて告げ、パチンッと鋭い音を立てて、扇を閉じた。
 誰もが臆する殺気と妖気をビシビシと感じ、俺は「ようやく本性を現したか」と、フッと失笑する。
「もう茶番は良いかの?」
 冷徹に告げられ、俺は鼻で笑いながら「元よりそのつもりだ」と顎を引き、しっかりと妖王を見据えた。
「そうか、それは良かった。もう笑いをかみ殺す事が出来なくなりそうじゃったからのぉ。主を息子だと言うている自分に、何度噴き出しそうになった事か」
「良いから、さっさと要件を話せ。何が狙いだ、お前はなぜあんな事をした。何を企んでいる?」
 淡々と尋ねると、妖王は「なぁに、ただの退屈しのぎじゃわ」と艶やかだが、ゾクリと恐怖する笑みで答えた。
「退屈しのぎ、だと?」
「そうじゃ。いたづらに時を過ごすにも飽いてきた頃でなぁ、退屈しのぎになるものはないかと考えていたのじゃ。そこでな、わらわは思い出してのぉ。そう言えば、わらわには手頃な玩具が残っていた、とな」
 俺はその言葉に、ブチブチッと次々と血管が切れる音がするが。グッと堪えて、冷ややかに続く言葉を黙って聞き入る。
「いつぞやに捨てた物だから、とうに忘れていたが。何の因果か、幸運にも思い出してのぉ。調べてみれば、生き延びたばかりか幸せに暮らしておると分かってなぁ。その幸せそうな姿を見て。人間の小娘に思いを寄せていながらも、気持ちを隠すお前を見て、これじゃと思ったのじゃ。お前の全てを奪うのは、きっと楽しい事であろうからなぁ」
 恍惚とした表情を浮かべながら、残酷な言葉をつらつらと淀みなく吐き出していく。