戦妖記~小国の戦姫~

 相変わらず嫌な場所だな。本当は帝なんか存在しない、自分がこの国の真の王。全て取り仕切っているのは、自分なのだと言う意図をハッキリと感じる、嫌な場所だ。
 俺は大きなため息を吐き出してから、ゆっくりと歩き出した。だが何歩歩いても、全く前に進まない様に感じる。
 重々しい妖気のせいで、足取りが重くなっているのかと思ったが。すぐに違うなと、心の中の自分が反論を口にする。
 妖王に会いたくないから。そしてなぜ今自分がこんな場所に居るのだという嫌気から、足が重くなっているのだ。妖気が重いとかは全く関係無い。
 俺は自分が導き出した答えに、「成程、そうだな」と深く納得した。
 そして歩を早める事もなく、のろのろと歩き、宮廷に入っていく。
 勝手に宮に入っていくのだから、誰か止めて帰らせてくれまいかと思ったが。生憎、誰も止めてはくれなかった。
 容姿が人間の奴が、てこてことこんな所を歩いているのだから、誰か止めるべきだろと突っ込みたくなるが。宮廷を守っている妖怪達は俺を止めるどころか、俺を見てハッとした表情になり、急いで畏まるだけ。
 いつもは人間を襲い、自分こそが恐怖の塊だと言う様に生きている奴らが。揃いも揃って、ぺこぺこと。情けないし、実に滑稽だ。
 俺はそれらの姿を底冷えした目で貫き、チッと舌打ちを零した。
 そうして長い廊下を一人だるそうに歩いていたが、遂に妖王の間に着いてしまった。
 赤色の大きな門の様な扉が立ち塞がっているが。俺が目の前に立つと、一人でにぎぃぃと重々しい音を立てさせながら、外側に開く。
「入れ」
 蠱惑的な声が部屋の奥からし、俺は黙ってその声に従った。
 部屋は随分豪壮だった。南蛮から取り入れたのかと推測出来る、真っ赤な敷物が縦に長く敷かれているが。ただの敷物ではなく、見事な刺繍で出来た金色の狐が点在していた。
 上で輝く光は、行儀正しく一列に並んだ、妖しげに赤く光る狐火。
 そして部屋の奥にあった簾が勝手にくるくると上がり、簾の向こう側に居た奴としっかりと相まみえる。
 横広の金色の玉座に鎮座し、俺を見てニヤリと微笑む女。俺よりも年を取っているはずだが、あれから全く容姿が変わっていない。衰えを一切感じさせない顔つきと、艶麗な体つきをしている。誰もが見惚れる美姫の様だが、その美しさの裏には邪悪が潜んでいる。