弱ったな、これではあちらに行けない。だが、ここで時間を食っている場合ではない。俺はすぐにあちらに行かねばならぬ。まぁ妖術を使えば、こいつらを宥める事なんて訳無いが。俺は人間らしく振る舞う妖怪だから、ここは人間らしく場を治めたい所。
どうしたもんかと考えあぐねていると、俺の耳元で妖艶な声が聞こえた。
「術を使えば訳なかろうてぇ」
忘れもしない、嫌な女の声。相変わらず誰も彼も惑わす声をしている。そしてそこに秘められている、悍ましい悪意も変わらない。
俺はその声に怒りを覚えるが、宥める様にグッと拳を作り、手の平に爪を食い込ませる。そうして怒りを小火程度に収めるが、図らずもすぐに燃え上がった。
「はよう入って参れぇ。待ちくたびれそうじゃわぁ」
わざとらしい声に苛立ちを覚えるが、前を見ると門兵達が不自然にとろんと惚けていた。顔をとろんとさせて、ぼうっと空中を見つめている。
俺はその二人の姿に、直ぐさま何が起きているのか理解する。同じ、幻術使いとして。
もうすでにコイツらは、アイツの手駒だったのか。この為だけかは分からんが、わざわざ遠方からも操れる様に、糸を付け済みとは。相変わらず気色悪い事をする奴だ。こうなっては出直す事も、帰る事も出来ぬか。
チッと大きく舌打ちしてから、惚けている門兵達の真ん中に立ち、大仰に立ち塞がる門に手を添える。
すると木目がぐにゃんと歪み、俺の手が門の中に透き通り、俺の片手は門の向こう側に消えた。
俺は向こう側に消えた手を見つめて、長く息を吐き出す。
入る事を許可されたか。本心を明かすと、もう二度と、ここには来たくなかったのだがな。
そして全て吐き出した息を、少し取り戻す様に軽く吸ってから、俺はゆっくりと歩き出した。ぐにゃんと門が歪み、俺の体は向こう側に消える。
門を通ると、でんと帝の宮廷が現れた。だが、この宮廷には帝はいない。ここは人間の世界とは、完璧に切り離された世界だ。
その証拠に、濃藍色の空が広がり、赤に染まった三日月が煌々と浮かんでいる。そんな暗黒な空を数匹の妖怪がおどろおどろしく飛び回っているし、宮廷を闊歩しているのも妖怪だ。
俺はその世界に、嫌悪を隠しきれず、露骨に顔を歪める。
どうしたもんかと考えあぐねていると、俺の耳元で妖艶な声が聞こえた。
「術を使えば訳なかろうてぇ」
忘れもしない、嫌な女の声。相変わらず誰も彼も惑わす声をしている。そしてそこに秘められている、悍ましい悪意も変わらない。
俺はその声に怒りを覚えるが、宥める様にグッと拳を作り、手の平に爪を食い込ませる。そうして怒りを小火程度に収めるが、図らずもすぐに燃え上がった。
「はよう入って参れぇ。待ちくたびれそうじゃわぁ」
わざとらしい声に苛立ちを覚えるが、前を見ると門兵達が不自然にとろんと惚けていた。顔をとろんとさせて、ぼうっと空中を見つめている。
俺はその二人の姿に、直ぐさま何が起きているのか理解する。同じ、幻術使いとして。
もうすでにコイツらは、アイツの手駒だったのか。この為だけかは分からんが、わざわざ遠方からも操れる様に、糸を付け済みとは。相変わらず気色悪い事をする奴だ。こうなっては出直す事も、帰る事も出来ぬか。
チッと大きく舌打ちしてから、惚けている門兵達の真ん中に立ち、大仰に立ち塞がる門に手を添える。
すると木目がぐにゃんと歪み、俺の手が門の中に透き通り、俺の片手は門の向こう側に消えた。
俺は向こう側に消えた手を見つめて、長く息を吐き出す。
入る事を許可されたか。本心を明かすと、もう二度と、ここには来たくなかったのだがな。
そして全て吐き出した息を、少し取り戻す様に軽く吸ってから、俺はゆっくりと歩き出した。ぐにゃんと門が歪み、俺の体は向こう側に消える。
門を通ると、でんと帝の宮廷が現れた。だが、この宮廷には帝はいない。ここは人間の世界とは、完璧に切り離された世界だ。
その証拠に、濃藍色の空が広がり、赤に染まった三日月が煌々と浮かんでいる。そんな暗黒な空を数匹の妖怪がおどろおどろしく飛び回っているし、宮廷を闊歩しているのも妖怪だ。
俺はその世界に、嫌悪を隠しきれず、露骨に顔を歪める。



