そして京が仕えるに相応しい主君らしく、堂々と告げた。
「うむ。信濃で待っておる」
「ハッ。姫もご無事で」
厳格な声に、京は深々と叩頭した。
そして「では」という憮然とした声が聞こえたと思えば、ぽっぽっと青白い狐火がどこからともなく京の周りに現れ、一気にボッと大きく燃え上がった。
あまりの眩しさに、軽く目を瞑ってしまうが。
目を開けた時には、すでに狐火と共に京の姿が忽然と消えていた。
隣にいた総介は、ぱしぱしと目を瞬かせ、光の調整をしながら「全く。姫様の御前だと言うのに、仰々しい出かけ方をしおって」と苦言を呟く。
わらわはその苦言に苦笑を浮かべて、目を瞬かせた。そして目がいつも通りになると、
京が居たであろう場所を見つめる。
こうなると・・・。この部屋に居たのはわらわと総介だけで、最初からそこには誰にも座っておらなかった様じゃなぁ。
再び仄かな闇の訪れを感じたが、すぐにそれを打ち払う様に頭を振り、気を引き締める。
「総介、これはいつも以上に策を綿密に練らねばなるまい。それほど京がおらぬ穴は大きい、だが殿の戦で負ける事は許されぬ。わらわ達だけで何とかせねばならぬのじゃ」
重々しく告げると、総介はわらわの言葉に「仰る通りです」と、淡々と答えた。
「今日はゆるりと骨を休める事が出来なさそうじゃ。すぐに戦の支度をしよう、他の者にもそう伝えよ」
「ハッ」
そうしてわらわは久方ぶりの美張を楽しむ事なく、一日中城に引きこもった。戦支度をして、策をあれこれと思案するが。
やはり京の不在は痛手であった。それは妖怪の動きを加味して、策を練らねばならぬからだ。
今までは京の意見を聞き、策を弄していた。戦地でも、京一人の力に任せきりだった事も多い。
だが、今は京を頼る事は出来ない。京の抜けた穴の大きさを痛感しながら、わらわは美張で過ごす一日を終えた。
そしてわらわは戦支度を完璧にして、早朝から三十人の兵を引き連れて美張を発った。やはり出立の時となっても、京が戻る事はなく、わらわの翼は片方欠けたままだった。
・・・・・・・・
それからわらわ達はいつも通り、一日をかけて信濃に入ったが。信濃に入っても、殿の城中に入っても。拭いきれぬもの寂しさを感じていた。
「うむ。信濃で待っておる」
「ハッ。姫もご無事で」
厳格な声に、京は深々と叩頭した。
そして「では」という憮然とした声が聞こえたと思えば、ぽっぽっと青白い狐火がどこからともなく京の周りに現れ、一気にボッと大きく燃え上がった。
あまりの眩しさに、軽く目を瞑ってしまうが。
目を開けた時には、すでに狐火と共に京の姿が忽然と消えていた。
隣にいた総介は、ぱしぱしと目を瞬かせ、光の調整をしながら「全く。姫様の御前だと言うのに、仰々しい出かけ方をしおって」と苦言を呟く。
わらわはその苦言に苦笑を浮かべて、目を瞬かせた。そして目がいつも通りになると、
京が居たであろう場所を見つめる。
こうなると・・・。この部屋に居たのはわらわと総介だけで、最初からそこには誰にも座っておらなかった様じゃなぁ。
再び仄かな闇の訪れを感じたが、すぐにそれを打ち払う様に頭を振り、気を引き締める。
「総介、これはいつも以上に策を綿密に練らねばなるまい。それほど京がおらぬ穴は大きい、だが殿の戦で負ける事は許されぬ。わらわ達だけで何とかせねばならぬのじゃ」
重々しく告げると、総介はわらわの言葉に「仰る通りです」と、淡々と答えた。
「今日はゆるりと骨を休める事が出来なさそうじゃ。すぐに戦の支度をしよう、他の者にもそう伝えよ」
「ハッ」
そうしてわらわは久方ぶりの美張を楽しむ事なく、一日中城に引きこもった。戦支度をして、策をあれこれと思案するが。
やはり京の不在は痛手であった。それは妖怪の動きを加味して、策を練らねばならぬからだ。
今までは京の意見を聞き、策を弄していた。戦地でも、京一人の力に任せきりだった事も多い。
だが、今は京を頼る事は出来ない。京の抜けた穴の大きさを痛感しながら、わらわは美張で過ごす一日を終えた。
そしてわらわは戦支度を完璧にして、早朝から三十人の兵を引き連れて美張を発った。やはり出立の時となっても、京が戻る事はなく、わらわの翼は片方欠けたままだった。
・・・・・・・・
それからわらわ達はいつも通り、一日をかけて信濃に入ったが。信濃に入っても、殿の城中に入っても。拭いきれぬもの寂しさを感じていた。



