戦妖記~小国の戦姫~

 母上はわらわを愛おしそうな目で見つめながら、「信じております」と嫋やかに告げた。わらわはその笑みに答える様に「必ずや、戻って参ります」ともう一度力強く告げた。
 母上に安心を届けさせる為に。自分を強く鼓舞する為に。
 そして朝餉の時間を終えると、わらわはすぐにいつもの部屋に戻った。
 戦の準備をし終わったら、今日はどこに行こうか話したかったのだ。しばらく美張には戻って来られぬだろうし、今日は充実した日を送らねばならぬからな。
 わらわの目の前には総介と京が、いつも通り正座して揃う。だが、京はいつも通りではなかった。京の顔は、しかと分かる程の渋面が作られていた。
「どうしたのじゃ、京。何かあったのか?」
 苦渋の顔つきをしている訳を聞こうと、京に尋ねる。
 するとしばらく間を空けてから、京は「大変申しづらいのですが」と重たい口を開き、自分の懐から縦長の封筒を取り出す。
「これを」
 取り出した封筒をそのままわらわに差し出した。
 京にこんな顔をさせるとはよっぽどの物じゃな。と思いながら、わらわは差し出された封筒を受け取る。
 だが、わらわは京の渋面の意味をすぐに理解した。印を見た瞬間に、わらわも愕然とし、驚きを抑えきれずに素っ頓狂な声を上げる。
「こ、これは妖王印じゃないのか?!」
 わらわの驚きに、総介も目を見開き「それはまことですか?!」と尋ねてから、京に視線を送る。
 わらわと総介の愕然とした目を受け止めながら、京は苦々しく頷いた。
 その暗然とした答えに、わらわは急いで中身を取り出す。谷折りで入れられ、味気ない紙質だった。
 その中身を見ようと、急いでパタパタと紙を広げると。『すぐに来られたし 妖王』と言う素っ気ない一文が、真ん中に書かれていた。
 これは妖王直々の呼び出しと言う事か?!だ、だが妖王からの呼びだしなぞ、聞いた事が無いぞ!
「どういう事じゃ?なぜ、妖王が?」
「分かりません」
 京は渋面を作りながら答え、文を憎々しい目で見つめていた。
「よ、妖王は、他の妖怪達にもかような事をするのか?」
 たどたどしく尋ねると、京はすぐに「いいえ」と首を横に振る。