だが、懸命に引っ張り出そうとする程、記憶は更に霞の中に消えてしまう。
ああ、これは思い出せそうにないの。わらわはどうやって部屋に戻ったのだろうか。京が何かを言っていた様な気もするが・・・全く覚えておらぬ。
すると部屋の向こう側から「姫様」と、可憐に呼びかける声が聞こえた。
「何用じゃ」
頭痛に顔を歪めながら尋ねると、扉の向こうから「朝のお支度に参りました」と返って来る。
「入れ」
「失礼致します」
音も立てずに襖を開け、わらわの部屋に入ってきたのは、付き女房達だった。お梅を筆頭に入ってくるが、全員顔に疲れが滲み出ている。いつもの溌剌とした顔はやつれ、無理に笑顔を作っている様に見えた。
昨夜の宴席での酒は、わらわだけに不調を引き起こしているのではないのだなと分かり、苦笑を浮かべた。
「おはようございます、姫様。では、早速やらせていただきますねぇ」
「うむ、疲れておる所悪いのぉ」
「いえいえ、昨日は大変楽しゅう時間でございましたからぁ。姫様が気遣い、悪く思う必要はありませぬぅ」
のほほんと告げると、女房達はわらわの支度にかかった。
そして朝の湯浴みを済ませ、格好を整えてもらう。髪も服も、疲れていても流石の腕前で、手抜かりなく、整えてくれた。
それから総介と京が、支度が終わったわらわの元にやってくる。京はいつも通りの姿になっていて、何食わぬ顔で「おはようございます」と告げて来た。
昨日の姿が夢の様に思えてくる。あの姿も、本音を吐露して、弱々しく語る姿も。
わらわの夢だったかと、訝かしむが。
「昨夜はありがとうございました、わざわざあんな所まで」
なんて、皮肉を込めた言葉をこっそりと耳打ちしてきたものだから。夢ではなかったのだと、現実味を得た。
それから、わらわは朝餉の準備が施されている部屋に入る。わらわが入ると、すぐ後に父上と母上がやってきた。目下には深い隈が刻まれ、お顔も疲れやら頭痛やらで、苦悶の表情を浮かべられていらした。
酒の力はやはり恐ろしいものだなと、痛感する。
「おはようございます、父上。母上」
父上と母上が揃って座った所を、挨拶をすると二人とも無理に笑みを作り「おはよう」と返してくれた。
そうして父上、母上、わらわで朝餉の時間を過ごすが。わらわが焼いた鱒に手を付けようとした時だった。父上が「姫よ」とわらわを呼んだ。
ああ、これは思い出せそうにないの。わらわはどうやって部屋に戻ったのだろうか。京が何かを言っていた様な気もするが・・・全く覚えておらぬ。
すると部屋の向こう側から「姫様」と、可憐に呼びかける声が聞こえた。
「何用じゃ」
頭痛に顔を歪めながら尋ねると、扉の向こうから「朝のお支度に参りました」と返って来る。
「入れ」
「失礼致します」
音も立てずに襖を開け、わらわの部屋に入ってきたのは、付き女房達だった。お梅を筆頭に入ってくるが、全員顔に疲れが滲み出ている。いつもの溌剌とした顔はやつれ、無理に笑顔を作っている様に見えた。
昨夜の宴席での酒は、わらわだけに不調を引き起こしているのではないのだなと分かり、苦笑を浮かべた。
「おはようございます、姫様。では、早速やらせていただきますねぇ」
「うむ、疲れておる所悪いのぉ」
「いえいえ、昨日は大変楽しゅう時間でございましたからぁ。姫様が気遣い、悪く思う必要はありませぬぅ」
のほほんと告げると、女房達はわらわの支度にかかった。
そして朝の湯浴みを済ませ、格好を整えてもらう。髪も服も、疲れていても流石の腕前で、手抜かりなく、整えてくれた。
それから総介と京が、支度が終わったわらわの元にやってくる。京はいつも通りの姿になっていて、何食わぬ顔で「おはようございます」と告げて来た。
昨日の姿が夢の様に思えてくる。あの姿も、本音を吐露して、弱々しく語る姿も。
わらわの夢だったかと、訝かしむが。
「昨夜はありがとうございました、わざわざあんな所まで」
なんて、皮肉を込めた言葉をこっそりと耳打ちしてきたものだから。夢ではなかったのだと、現実味を得た。
それから、わらわは朝餉の準備が施されている部屋に入る。わらわが入ると、すぐ後に父上と母上がやってきた。目下には深い隈が刻まれ、お顔も疲れやら頭痛やらで、苦悶の表情を浮かべられていらした。
酒の力はやはり恐ろしいものだなと、痛感する。
「おはようございます、父上。母上」
父上と母上が揃って座った所を、挨拶をすると二人とも無理に笑みを作り「おはよう」と返してくれた。
そうして父上、母上、わらわで朝餉の時間を過ごすが。わらわが焼いた鱒に手を付けようとした時だった。父上が「姫よ」とわらわを呼んだ。



