それから俺は、パチンと姫の周りを飛ばせていた幻術の蝶を消して、サッと立ち上がった。姫の部屋の襖をゆっくりと開けて、ゆっくりと閉める。姫の寝顔を最後の最後まで、目に焼きつける様に。
パタンと襖が閉まると、俺はシュッとその場を離れ、天守閣の屋根に移動した。
寂寥とした満月の夜を、俺は一人屋根の上で過ごしていた。姫の輝かしい笑顔の様な朝日が昇るまで、ずっと。
そうして払暁を迎えると、俺の髪も尾も耳も爪も、色を変え始めたり、消えたりしながら容姿を変えていく。妖怪としての姿から、いつもの京としての姿に戻ると、俺はスッと立ち上がり、明けてきた太陽を見つめた。
昨夜より、幸せな夜を過ごす事はこの先ないだろう。どれほどの時を過ごしても、きっと忘れる事無く、鮮烈に思い出す事が出来る。それほど幸せな時間を過ごせたのだから、昨夜の事は一生の宝だな。
でも、昨夜より幸せな夜を姫と共に過ごせたら良いなとは思う。まぁ、そんな時は来ないだろうがな。俺は妖怪で、ただの側仕えに過ぎないのだ。姫には相応しくない。
その先を夢見るなんて、随分おこがましい事だな。
自嘲気味に笑った刹那。俺の手元にどこからともなく、赤色に燃える狐火がボッと現れる。そのメラメラと燃える狐火の中には、縦長の文が入っていた。
それを見た瞬間に、胸に濃い暗雲が広がり、姫によって作られた至福が隅に追いやられる。暗澹とした未来が到来したのでは、と否が応でも思ってしまった。
俺は険のある表情で、狐火に手を伸ばす。熱くもない狐火は、俺の手が文に触れたと感知するとスッと消えた。
そしてしっかりと、俺は文を握りしめていた。
妖王の印が付いた、文を。
四章 絶望は突然に
目を覚ますと、わらわは自分の寝所の天井を見つめていた。ゆっくりと気だるい体を起こして、額に手を当てる。
おかしいぞ、わらわは昨夜京と共に城の屋根にいたはずなのじゃが・・・。
ぼんやりと霞む記憶を鮮明にさせようと、うーんと考え込むが、ズキズキと頭が痛む。昨日の酒が遅れて悪さをしているのをありありと感じた。
いかんの、慣れない酒を一気に飲むべきではなかったわ。総介の言う通りにしておれば、こうはならなかったであろうに。うう、真摯に聞いておれば良かったわ。
心中で昨夜の自分に苦言を言いながらも、なんとかして昨日の記憶を引っ張り出す。
パタンと襖が閉まると、俺はシュッとその場を離れ、天守閣の屋根に移動した。
寂寥とした満月の夜を、俺は一人屋根の上で過ごしていた。姫の輝かしい笑顔の様な朝日が昇るまで、ずっと。
そうして払暁を迎えると、俺の髪も尾も耳も爪も、色を変え始めたり、消えたりしながら容姿を変えていく。妖怪としての姿から、いつもの京としての姿に戻ると、俺はスッと立ち上がり、明けてきた太陽を見つめた。
昨夜より、幸せな夜を過ごす事はこの先ないだろう。どれほどの時を過ごしても、きっと忘れる事無く、鮮烈に思い出す事が出来る。それほど幸せな時間を過ごせたのだから、昨夜の事は一生の宝だな。
でも、昨夜より幸せな夜を姫と共に過ごせたら良いなとは思う。まぁ、そんな時は来ないだろうがな。俺は妖怪で、ただの側仕えに過ぎないのだ。姫には相応しくない。
その先を夢見るなんて、随分おこがましい事だな。
自嘲気味に笑った刹那。俺の手元にどこからともなく、赤色に燃える狐火がボッと現れる。そのメラメラと燃える狐火の中には、縦長の文が入っていた。
それを見た瞬間に、胸に濃い暗雲が広がり、姫によって作られた至福が隅に追いやられる。暗澹とした未来が到来したのでは、と否が応でも思ってしまった。
俺は険のある表情で、狐火に手を伸ばす。熱くもない狐火は、俺の手が文に触れたと感知するとスッと消えた。
そしてしっかりと、俺は文を握りしめていた。
妖王の印が付いた、文を。
四章 絶望は突然に
目を覚ますと、わらわは自分の寝所の天井を見つめていた。ゆっくりと気だるい体を起こして、額に手を当てる。
おかしいぞ、わらわは昨夜京と共に城の屋根にいたはずなのじゃが・・・。
ぼんやりと霞む記憶を鮮明にさせようと、うーんと考え込むが、ズキズキと頭が痛む。昨日の酒が遅れて悪さをしているのをありありと感じた。
いかんの、慣れない酒を一気に飲むべきではなかったわ。総介の言う通りにしておれば、こうはならなかったであろうに。うう、真摯に聞いておれば良かったわ。
心中で昨夜の自分に苦言を言いながらも、なんとかして昨日の記憶を引っ張り出す。



