あまりにも嫌な想像が瞼の裏に映し出されてしまい、俺はハッとして、悶々と考え出し始めた頭をぶんぶんと振った。そして唇に歯を強く突き立てる様に噛みしめると、舌に軽く苦みのある味を感じた。
血の味で、「何を考えているのだ、俺は」と苛立ち、スッと冷静な思考になってくるが。胸の中には、黒いしこりが残り続けている。
俺は姫の安心しきった寝顔を見てから、妖力を高め続ける満月を見つめた。
もしかしたら、そんな姫を慮った神が、妖怪である俺を姫の元に遣わしてくれたのかもしれないな。
らしくない事を想い、思わず口元がフッと緩んだが。言い得て妙なのではないか、と思い始めた。
俺は姫を守りたい。敵からは勿論だが、自身を追い詰め、喰おうとしている姫の強さからも。姫を害そうとする全てから、俺の力だけで守り抜きたい。
そしてずっと姫の側に居たい。強い様で弱くて、毅然としている様でどこか危うさを持った姫と。一生側に居て、守りたい。
でも、一つだけ惜しむべき事があるな。
それは姫が人間で、俺が妖怪と言う事。俺が妖怪だからこそ出来る方法で姫を守れて、姫の側に居られる事もあるが。反対に、俺が妖怪だからこそ悲しい事がある。
俺は死ぬには、時間が何千年とかかる九尾狐だ。大概の怪我も速くに治る。死と言う存在が遠くにあり、それを迎える事が難しい妖怪。
だが、一方で人間の姫は。恐らく、俺の半分の時を刻まぬうちに亡くなってしまうだろう。怪我だってなかなか治らないのだ。
だから俺の命尽きるまで、ずっと側に居たいと思っても、姫の方が先に逝ってしまう。同じ時を過ごしていても、歩む速度が違い過ぎるのだ。それが悔しくて、悲しくてならない。
「俺も人間だったら、姫と一緒の時を刻めるのにな」
ポツリと満月に向かって呟く。
強制的に化けの皮を剥がす力があるなら、人間にする事だって可能だと思ったのだが。残念ながら、そう易々と人間にはなれない様だ。
満月の夜は、妖怪達は皆化けの皮が剥がれると言うのに。人間達はそのままだ。
サラサラと顔の横を流れる真っ白の髪の毛を軽く指に巻き付けてから、ゆっくりとほどく。人間になれない自分に落胆してから、俺は小さく息を吐き出した。
そしてゆっくりと、姫の頭に自分の頭を軽くくっつけ
「姫、俺をずっとおそばにおいて下さいね」
血の味で、「何を考えているのだ、俺は」と苛立ち、スッと冷静な思考になってくるが。胸の中には、黒いしこりが残り続けている。
俺は姫の安心しきった寝顔を見てから、妖力を高め続ける満月を見つめた。
もしかしたら、そんな姫を慮った神が、妖怪である俺を姫の元に遣わしてくれたのかもしれないな。
らしくない事を想い、思わず口元がフッと緩んだが。言い得て妙なのではないか、と思い始めた。
俺は姫を守りたい。敵からは勿論だが、自身を追い詰め、喰おうとしている姫の強さからも。姫を害そうとする全てから、俺の力だけで守り抜きたい。
そしてずっと姫の側に居たい。強い様で弱くて、毅然としている様でどこか危うさを持った姫と。一生側に居て、守りたい。
でも、一つだけ惜しむべき事があるな。
それは姫が人間で、俺が妖怪と言う事。俺が妖怪だからこそ出来る方法で姫を守れて、姫の側に居られる事もあるが。反対に、俺が妖怪だからこそ悲しい事がある。
俺は死ぬには、時間が何千年とかかる九尾狐だ。大概の怪我も速くに治る。死と言う存在が遠くにあり、それを迎える事が難しい妖怪。
だが、一方で人間の姫は。恐らく、俺の半分の時を刻まぬうちに亡くなってしまうだろう。怪我だってなかなか治らないのだ。
だから俺の命尽きるまで、ずっと側に居たいと思っても、姫の方が先に逝ってしまう。同じ時を過ごしていても、歩む速度が違い過ぎるのだ。それが悔しくて、悲しくてならない。
「俺も人間だったら、姫と一緒の時を刻めるのにな」
ポツリと満月に向かって呟く。
強制的に化けの皮を剥がす力があるなら、人間にする事だって可能だと思ったのだが。残念ながら、そう易々と人間にはなれない様だ。
満月の夜は、妖怪達は皆化けの皮が剥がれると言うのに。人間達はそのままだ。
サラサラと顔の横を流れる真っ白の髪の毛を軽く指に巻き付けてから、ゆっくりとほどく。人間になれない自分に落胆してから、俺は小さく息を吐き出した。
そしてゆっくりと、姫の頭に自分の頭を軽くくっつけ
「姫、俺をずっとおそばにおいて下さいね」