「まあ、無理に見せる物でもないじゃろ。それで良い。わらわもその姿の事を隠しておこう。誰にも口にする事はない、じゃから安心せよ」
「かたじけのうございます、姫。まあでも、一番暴こうとしているのが姫だったので。他には今まで通りで大丈夫でしょうけど」
 痛い所を突かれたので、げほんげほんとわざとらしく咳払いをして、スッと顔を逸らす。
 そして「そ、それはそれじゃ」としどろもどろに答えてから「ほんに綺麗じゃのぅ」と言葉を濁した。
「ま、でもこれで俺は安心しました。この姿を見せるのは、正直賭けでしたからね」
 満足げに告げられるが、わらわは言葉に引っかかりを覚え「賭けじゃと?何故じゃ?」と問いかける。
 すると京はお猪口を少し傾けてから「それはそうですよ」と、苦笑を浮かべた。
「この姿を見て、姫が怖がるのではないか。そしてもう俺はいらなくなるのではないか。二度と、姫に仕えられなくなるのではないか。なんて考えたりもしますよ、こんな姿ですし」
 ハハと乾いた笑いを向けられるが、わらわは「馬鹿な事を!」と憤慨した。
「そんな事ある訳なかろう!頑迷固陋過ぎじゃ!妖怪だから何だと言うのだ、お前はわらわの側仕えなのだぞ!何度も言うが、お前を怖がる時なんか来ぬ!妖怪だからと言う壁を作る時もないわ!」
 ブチッと切れた何かは、怒りと呆れを混ぜた言葉を淀みなく吐き出していく。
「良いか、もう二度と馬鹿な事を考えるでないぞ。わらわが主を手放す時なんか来ぬからな。来たとしても、その時はわらわが死ぬ時じゃ。この愚か者が」
 ギロッと睨みながら、京を厳しい目で射抜く。軽く結ばれた口が怒りで、まだぴくぴくと動いていた事に気がつき、キュッと堅く結び直した。
 京は、わらわの目に射抜かれると「はい」と柔らかく破顔した。そしてわらわに向かって、手をつき、深々と叩頭する。
「馬鹿な事を考え、姫に申し上げた事。深く恥じ入り、反省致します。誠に申し訳ありませぬ」
「全くじゃ、面をあげよ」
 京の頭が上がると、まだ縦耳は軽く項垂れていたが。とても晴れ晴れとした顔つきになっていた。
「ふん、拾われた所がここだったのが運の尽きじゃなぁ。主は運が悪かったの」
 わらわはバッと京の手から酒の入った瓢箪を引ったくるように奪ってから、ごくごくと酒を喉に流し込んだ。