「全く、馬鹿にしおって。本当にお前はお前だな、どんな姿になっても」
 ため息交じりに告げると、京は「そうですね、どんな姿であれ俺は俺です」とカラカラと笑いながら言う。
「姫は、こんな俺がお嫌いですか?」
「・・・・・何を言わせたいのか、見え見えだぞ」
「あれ、バレました?」
 京がケラケラと楽しそうに笑うので、わらわは「全く」と横を向き、はぁと長いため息を吐き出した。
「では姫、一つ伺います。いつもの姿が良いか、こっちの姿が良いか。教えて頂けますか?」
「・・・・・何故それを言わなければならぬ」
 ぷうっと頬を軽く膨らませると、京は「大事な事ですから」と打って変わった様な真剣な顔つきになる。
 そんな真剣な瞳に貫かれると、こちらも誤魔化しが効かなくなるではないか。
 わらわはうーんとしかつめらしい顔つきになって、何かに憚られながら、もごもごと言葉を紡ぐ。
「そうじゃなぁ。いつもの姿は馴染みがあって良いが。今の姿も良いと思うぞ。わらわは好きじゃ、神秘的な感じがしてのぅ」
 ぽつりと言い終わった瞬間、ぶわっと恥ずかしさが襲ってきた。
 なぜこんな事を面と向かって言わなければならぬのじゃ!恥ずかしいったらないぞ?!戦の時よりも焦るし、冷静な思考が消えていくぞ!その証拠に見てみろ、このじんわりと汗ばんだ手を!
 だが、京はわらわの身悶えに気がついていないのか。言葉を奥歯で噛みしめる様に「そうですか」と呟き、顔を柔らかく綻ばせた。ひょいひょいと嬉しそうに九本の尾も揺れている。
「いつもの姿も、髷の姿にしてみれば良いのにの!」
 とってつけた様に言うと、京はすぐに「嫌です」と首を振り、渋面を作った。
「あれは俺の美学に反します」
「おい、何を言うか。あの姿は日本国の美だぞ」
「いや、俺妖怪なので。そんな人間の風習とか、関係無いので」
 どれだけ嫌なのかがよく分かる程、顔を歪めている。
 その姿をしておらぬから、人間ではないと露見するのではないかと嘴を容れたくなったが。「まあ」と先に口を開かれたので、言葉を控える事にした。
「姫がそう言ってくれて、この姿も良いとは思いましたけど。やはり、この姿は姫以外には見せとうありません。総介は勿論ですけど、親方様にも、奥方様にも」
 らしくなく、暗然として告げる京に、わらわは「そうか」と満月を見ながら淡々と答える。