「例え母君に似ておるのだとしても京は京で、母君は母君じゃ!容姿が似ているからなんだと言うのじゃ!容姿が似ているから、全て似ている訳ではないぞ!」
 静かな夜の世界に、わらわの力強い声が響く。そよそよとした風に乗り、わらわの胴間声が広々と美張の上空を渡っていく。
 その反響した声に耳を傾けてから、京の横顔を見つめて破顔した。
「大体のぅ。わらわだって、母君によう似ていると言われているが。性格は全く違うであろ?」
 口惜しい事にのぅ、と肩を竦めると。目の前の京の唖然としている顔が段々と崩れ、柔らかな笑みに変わっていった。
「そう、そうですね。確かに、言われてみれば・・・そうですね」
 京はわらわの方を向いて、ふうと吐息をゆっくりと吐き出す。
 するとその吐息は、不思議な事にキラキラと小さな星を形成し、わらわの周りでキラキラと仄かな輝きで光り始めた。
 星の間を縫うようにして飛ぶ蝶達、その景色は更に幻想的な世界になっていく。蝶が星とぶつかると、星が揺れて流れ星のようにたなびいた。
「おおお、おおおお!これは実に美しいのぅ!」
 わらわは目の前の光景に、キャアキャアと子供っぽい歓声をあげてしまう。しゃんとせねばと言う理性が、頭の中で喚いたが。興奮の波に押し潰され、やかましい理性は消えてしまった。
「母はこんな事をしないですからね。確かに、俺は俺だ。姫の言う通りですね」
 興奮しているわらわの耳元に、京の納得した様な落ち着いた声が聞こえるが。興奮していた為、意識がそこに置けず「うんうん」と空返事をした。
「姫が告白まがいの事を申してくれたので、俺、元気出ました」
 とんちんかんな言葉が聞こえたので、興奮が一瞬にして冷め、ぶっと吹き出して「何を言うている?!」と、京に噛みつく。
「きょ、京。お前、自分が言っているか分かっておるか?!わらわはそんな事言っていないぞ!」
「え、申し上げてくれたではありませぬか。美しいとか、見惚れるとか、心臓が高鳴ったとか。姫の本音が聞けたので、存外この姿も悪くないと思いましたよ」
「こ、こ、この大うつけが!それはただの褒め言葉じゃ!主君が送る、ただの褒め言葉に過ぎぬのじゃ!」
 ギャアギャアと噛みつくと、京はいつもの余裕綽々な笑みを見せた。
「はいはい、そうですね。でも、俺の心の中では、きちんと受け止めておきますから」