「母に似ていると強く認識し、自分はあの女の子なのだと思い知らされるからです。ただ、それだけの理由ですよ」
 京の口調は軽やかだが、言葉には深く嫌悪を込めていた。
「京は・・・母君に似ておる、のか?」
 わらわは言葉に含まれた嫌悪に感じながらも、問うてしまった。
 そんな言葉を投げかければ、答える京の言葉は辛くなると分かりきっているのに。聞かずにはいられなかった。
 京はそんなわらわの心情を察したのか。「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ」と言う様に、温柔な目をして、口元を綻ばせた。
「そうです。俺の母、大嫌いな母です。母と呼ぶのにも虫唾が走るって言うくらいですが。俺の母は血も涙も無い、冷酷な女ですよ。優しさもないし、母親としての愛もない。
 あの女にあるのは、妖怪としての禍々しさと獰猛さ。隠しきれない残忍さ。己が利のためなら、どんな残酷な手も平気で使う。非常に怜悧的でもあり、恐ろしい女ですよ。
 そんな奴の子だと感じたくないのに、この姿でそれを嫌でも思い出させる。それ程似ている、だから嫌なのです」
 京は自嘲気味に笑ってから、自分の手を静かにじっと見つめた。
 その姿は、とても儚げに見えた。触れてしまえば、バラバラと崩れ落ちる様な危うさを秘めた陶芸品の様だと感じる。
 わらわは指で蝶と戯れるのを辞め、そっと自分の膝の上に手を乗せた。
「そこまでその姿を忌避しなくても良い、とわらわは思うぞ」
 ゆっくり告げると、京は「え?」と唖然とした。
「無論、かような事を言われたくもないと思う。京の心中は、簡単には割り切れずにいるであろう。だがな、そこまで自分の姿を嫌わなくても良いと思うぞ。
 その姿は、とても美しく神秘的じゃ。わらわは一目で見惚れて、心臓が高鳴った。妖怪という禍々しさと言うよりも、神秘的で優美な妖しさを感じたのじゃ。だからの、そこまで自分の姿を嫌わないで欲しいと思う。勿論、この様な事を言われても嫌なものは嫌であるとは思うがな」
 泰然としながら言葉を紡いでいくと、京は複雑な感情が綯い交ぜになった顔を見せた。尻尾も苦悶するように、動きを堅くさせる。わらわはその姿にフッと笑みを零してから、バシッと京の大きな背中を強く叩いた。