するとすぐにヒラヒラと蝶が舞い降りてきて、パタパタと人差し指の上で、羽を休め始める。
 蝶の足を指にキチンと感じる。これは幻術の類いであるはずなのに、もぞもぞと指が痒くなるとは。やはり素晴らしいのぉ。
「凄いのぉ。ちゃんと生きている様に感じるぞ」
「そりゃあ、俺の術ですからね。ちゃんと生きている様に感じますよ」
 わらわの呟きに対して、鼻高々に答える京。
「化かして生きるのは、狐の性分。故に、化かしを上手く出来ないと生きていけません。まあ、でもここまで高度な物を練られるのは九尾狐だけですよ。それに今宵は満月と言うのもあって、いつもより数も質も良いんですよ。勿論、普段もこれくらいは容易いですけどね?」
「そうなのかぁ、凄いのぅ。久しぶりに京の凄さを感じた様な気がするぞ」
 蝶を指に数羽止まらせながら感嘆すると、「姫」と恨めしげに呟かれる。
「今、サラッと悪口を言いましたね」
「ふふん、いつもの仕返しじゃ」
 ニッと意地悪く微笑むと、京は「成程」と柔らかく微笑み返した。またその優しい笑みに、ドキッとしそうになるが。その心を誤魔化す様に、「ところで」と言葉をかける。
「ずっと気になっておったのだが。京は何故その姿を他人に見せないのじゃ?」
 わらわが尋ねると、京は「ああ」と低い声を出してから、自嘲気味に笑った。
「俺自身がひどくこの姿を嫌っているからです。だから見せたがらないって言うか、嫌いな姿を誰にも見て欲しくないって思うって言うか」
「そ、そうであったのか」
 わらわは思わぬ理由に、声を落として「すまぬ」と小さく項垂れる。
 そんな複雑な思いを抱えていたとはつゆ知らず、わらわは面白半分で探し回っていた。京の本当の姿を見たいと言う自分の欲ばかりを優先させて。
 京がなぜ見せたがらないのか、なんていう理由を深く考えずにいた。主人として恥じ入るべき行いではないか。
 忸怩たる思いに駆られていると、横から「姫が謝る事は何もありませんよ」と微笑まれる。
「俺も姫で遊んじゃいましたしね。それに実は、姫にはこの姿の俺を見つけて欲しかったのかもしれませんし」
 微笑を浮かべながら告げられ、わらわは何とも言えない表情を見せた。
 それに京はクスッと笑ってから、「この姿を嫌う理由はですね」と、ゆっくりと切り出した。