けれど、京はそんなわらわの高鳴りに気がつく事なく「そうですよね、姫が怖がるなんて無いですよね」と、飄々と返す。
 ようやくいつもの姿勢を取り戻したのだろう、耳も尾もしゃっきりとし始めたが。わらわだけは、未だにドコドコと鼓の様な音を出し続ける心臓のままだ。
「それで姫、長年探し回り続けて、見つけたご感想はどうですか?意外と呆気なかったですか?」
 なんていつもの口調で飄々と尋ねられるのに、わらわは「あ、ああ」と堅く答えてしまう。
 いかん、鎮まるのじゃと思い、急いで冷静を取り戻そうとするが。その時は、すぐに訪れた。
「俺、今回も姫の負けかと思っていましたよ。だって、とんちんかんな所をばかりを必死で探しているから」
 嘲笑しながら言われ、スッと気持ちが冷静になっていった。気持ちも心臓も鎮まっていく。
 そうじゃった。どんな姿であれ、京は京じゃ。外見が変わっただけで、性格は何も変わらぬのじゃ。意地悪な奴じゃったわ。
「ふん、本気を出せば容易く見つけられるわ。今までそうしてこなかっただけの事じゃ」
 んべっと舌を出すと、京は「へえ、そうなんですかぁ」と、ニタニタと口角を意地悪く上げた。綺麗に並び、ギラリと光る鋭い歯が露わになる。
「おかしいですね。どこじゃ、って必死に呟きながら探し回っているお姿は、嘘だったんですか」
「そ、そうじゃ。敢えて、じゃ」
 ツンとそっぽを向いて答えると、京はフフッと失笑した。
「そうですかぁ。姫の優しさで、俺は快適に過ごせていた訳ですかぁ。笑える姿を敢えて提供してくれていたんですか。フフッ、そうですかぁ、あの姿の姫は貴重だったって言う事ですね。あんなに、フフッ、目の前にいて気づかない姫の姿、フフフッ。側仕えに見せて、良かったんですかね、フフフッ」
 笑いが堪えきれなくなったのか、必死に押し殺そうとして押し殺せなかった笑みが所々言葉の中に現れる。
「京、主は本当に良い性格をしているなぁ」
 ピキッと額に血管を浮かび上がらせると、京はヘラヘラと笑いながら「まあまあ」とわらわを宥めた。
「怒らないで下さいよ。今度からはもっと難しくします。それで良いでしょう?」
「ふん、やってみるが良い。すぐに見つけ出してやるわ」
「でも姫、今回は探し回って二時間以上かかっていますよ」
「やかましい!良いのじゃ、見つけられたからわらわの勝ちなのじゃ!」