音も無く、素早く京が動き、わらわの無事を確保してくれたのだろう。その証拠に、わらわの目の前で、美しく光る白の長い髪がパラパラと流れ落ちる。
「全く、酒をお飲みになられているのでしょう?それならば、いつもより気を遣い、お転婆を辞めてもらわないと困りますよ」
 相変わらずの憎まれ口で、少しカチンとくるが。まだ京の様で京じゃない部分に触れているからか、「お、おお」とたどたどしくも素直な返答になる。
 京はゆっくりとわらわの体勢を戻してくれると、パチンと指を鳴らして座布団を出した。そして滑らない様固定し、ふかふかの座布団にストンと腰を下ろすのを手伝ってくれる。
 その時、京の手を見ると、いつもよりもニュッと長く爪が鋭く伸びていた。よく見れば、額にも紺色の雷の印が刻まれていた。
 これが、京の妖怪の姿なのか。いつもとは違い、更に妖しげで美しくて、人間が手を触れるにも無礼だと感じる程神聖な姿じゃの・・・。
「それが、京の妖怪としての姿。なのか?」
 未だに慣れない姿に心をざわつかせながらも、わらわはゆっくりと尋ねた。
 京はフフッと妖艶な笑みを作ってから「はい」と答えた。
「まぁ、妖怪としての姿と言うか、妖怪としての普段の姿って言う方が良いかもしれませんね。これを元として、色々な変化をする訳です。しかし俺は人間の姿が基本なので、こっちの姿ではあまり手入れしていなくて。申し訳ありませぬ、だらしのない格好で」
 顔の横を流れている髪をちょいと長い爪で摘まみ、ゆらゆらと軽く揺れ動かす。
「い、いや。それは構わぬが。て、てっきり、獣の姿になっている、のだとばかり思うておった、わ」
「まあ、そっちの姿も素ですが。こっちの姿の方が、色々と楽なので」
 ニコニコと言うと、京は軽く飛び上がってからくるんっと回り、小さい九尾狐に変化した。神聖な白色の毛を持った、もふもふの小さな狐は鼻高にコンッと鳴く。
「へっ。ま、まさか。きょ、京なのか?」
 わらわが愕然として尋ねると、目の前の小さな九尾狐は「そうですよ」と甲高い声質で、苦笑気味に答えた。
「大きさは調節しましたよ。しなかったら美張城が潰れてしまうので」
 なんて甲高い声で説明されるが。わらわの耳には、そんな説明は入ってこなかった。愛らしさに、全ての意識が持って行かれる。