困り果てて、うーんとその場で立ち止まり、顎に手を当てて考え出す。京の隠れそうな場所、行きそうな場所を。
 すると、突然ピカッと稲妻が頭の中で弾け、全ての脳細胞を刺激した。
 そうじゃ、そうじゃ。わらわが探したのは、城の全てではなかったの。
 まだ、あそこを探しておらなかった。あそこなら、誰にも見つけられない絶好の場であった。
 わらわはニッとほくそ笑んでから、裳着の準備をした部屋に走り、天井に手を伸ばして、がこんと板を外した。
・・・・
 細い通路を通り瓦屋根に登り終えると、久しぶりに聞く、唸る様な風が顔にぶつかる。
 酒のせいもあって、この前に登った時よりも瓦屋根の傾きを大きく感じ、ぐらっと前のめりに倒れそうになるが。千鳥足をなんとか踏ん張らせて、瓦屋根の上に踏みとどまった。
 危ない所であったと軽くホッとしてから、前を見ると。目が段々と見開かれ、ハッと息をのんだ。
 美しく優しげな光を照り輝かせて光る満月を背景に佇む、神秘的な妖怪の後ろ姿。頭からぴんと生えている縦耳。ふわふわと柔らかく揺れ動いている、九本の尾。
 真っ白の長い髪は癖一つなく、白色が透き通る様にキラキラと美しく月光を反射していた。だが、長く綺麗な髪は手持ち無沙汰にされており、川の様に緩やかにうねりを作って後ろに全て流されていた。
 美しいと感じるが、妖しげな何かを纏っている後ろ姿。
 見えない顔が、ゆっくりとわらわの方に向かれる。透き通る様な髪から、はらりと覗く眉目秀麗な顔立ち。
 いつもの涼しげな目元は更に切れ長になり、射抜かれただけで全身が強張る。はあとため息が漏らされる口からは、いつもよりも鋭い犬歯が見えた。
「ようやく、ようやく見つけられましたね」
 いつもの声のはずなのに、声がとても艶やかで蠱惑的に感じる。
「まぁでも。まさか、ここまで来るとは思いませんでしたけどね」
「と、当然じゃ。わらわに行けぬ所なんかないからの」
 ドギマギとする胸を隠しながら、京の元に歩み寄ろうとするが。動揺しすぎたのか、ぐらっと瓦屋根を踏み外し、体が呆気なく前のめりに倒れる。
「わっ!?」
 当然瓦屋根の上をゴロゴロと転げ落ち、空中に飛び出し、地面に落下する物だと思っていたが。
 すぐに、トスッと何かに受け止められ、体が止まった。わらわは力強い腕に、抱きかかえられていた。