「久しぶりの美張じゃからのぅ。羽を伸ばそうかのぉ、主等もゆるりと出来る良い機会であろうから、羽を伸ばすと良い」
「「ハッ」」
 そうしてパカパカと軽やかに馬を走らせて、三人揃って城下町に入る。
 すると城下町の入り口に着いた瞬間、「あああ!」と言う歓声が飛んで来た。
「姫様だ!姫様がご無事に帰還なされた!」
 誰かが野太く叫んだと思えば、少し賑わっているか程の通路に、大勢の人が飛び出してきた。どどどどっと、歩兵が進軍してくる様な地響きを起こしながら。
 それに馬は少し驚き、大きく嘶いていたが。わらわはそれを宥めながら、駆け寄ってくる民達に温かく迎え入れられる。
「皆、息災であったか」
「勿論でする!姫様は?!」「姫様はご無事でしたか?!」「ああ、良かったです。姫様!」
 わらわがニコニコと問いかけると、民達は一斉に口を開き、言葉をかけてくれた。わらわは、かの有名な聖徳太子ではないのじゃが。全ての声を聞き漏らすまいと、真剣に民達の声を聞き取った。
 久方ぶりの民達の笑みは、本当に疲れも何もかも吹き飛ばしてくれるのぅ。と思いながら、民と会話を交わしていたが。総介が「皆、姫様は親方様にご挨拶がある故、もう行かねばならぬ。離れよ」と見計らって、厳格な声を張り上げた。
 わらわはその声に「あっ、そうじゃった」とハッとする。その一方で、民達は少し不服な声を漏らした。その声に、わらわは「すまぬの」と苦笑を浮かべる。
「しばらくわらわは美張にいるからの。またすぐに会えよう。じゃから今日はここまでじゃ、皆の顔が久方ぶりに見られる事が出来、大変嬉しく思うたぞ」
 口元を綻ばせながら告げると、少し雲がかった顔は晴れ、「私も!」「またいらしてくださいまし」「約束にございまするぞ!」と口々に声をかけて、道を空けてくれた。
 わらわ達は「すまぬ」と言いながら、馬に乗って空いた道を行くが。やはり別れが惜しいのか、わらわの道を邪魔しない様に民達が付いてきて「姫様」と嬉しそうに手を振っていた。
 それにわらわは顔を綻ばせ、手綱を上手く取りながら、手を振り返して進む。
 その道中で、わらわは気がついてしまった。ほぼほぼの歓声はわらわに対してなのだが。後ろから付いている側仕え二人にも黄色い声が飛んでいると言う事に。わらわは気がついてしまった。