こういう所の気は遣えるのにのぅ。普段が意地悪すぎるからのぅ、まことに口惜しいわ。なんて思いながら、チラッと京の顔を見上げると、図らずもバチッと視線が合ってしまう。
綺麗な黒曜石の様な瞳に自分が映ると、京はフッと柔らかな笑みを見せた。
「なんです、姫?何かありました?怖いとかですか?」
「怖いわけあるまい、わらわは武士の娘だぞ!」
「そうですね、でも普通の武士の娘はこんな事をしないんですよ。屋根に登り、駆け下りて、塀を跳び越えて城下町に行こうなんて。無謀・無策も良い所です」
「そこまで言わなくても良かろう!」
「はいはい、そうですね」
京の耳には全くわらわの言葉が届いておらぬ様で、相変わらず涼しげな顔をしていた。
悔しい、悔しすぎるぞ・・
唇を噛みしめながら、前を見ると、もう天守閣の方に近づいていた。京は何事もなかった様に、天守閣から入り込み、ストンと城内に着地した。そしてわらわの足が床を踏みしめた事を確認すると、ゆっくりと抱えていた腕を離す。
わらわと京が降り立った事により、混乱に陥っていた城内に安堵の声が広がった。
するとすぐに「お父上様がお待ち申しておりますよ」と、家臣の一人に急かされ、その部屋まで先導される。もうわらわを見失わない様にするためか、逃がさない様にする為か。わざわざ人が多い所を通り、前も後ろも人で固められる。
「京よ・・」
「はい、なんですか?」
「父上は、お怒りだと思うか?」
おずおずと後ろに控える京に尋ねると、「さぁ、どうでしょうねぇ」と肩を竦められるが。そう告げる顔が「怒られるのは、ご自分の責任」と言わんばかりだったので、わらわはぐぬぬと小さく怒りに燃えた。
そうして部屋の前に着くと、「姫様がお戻りになられました」と告げられる。「入って参れ」と、重々しく告げる声が帰ってくると、ゆっくりと開く襖。わらわは勘気に身構えながら、部屋の奥を見据える。
そこには、待ち構えていた様に腕を組み、どっかりと座っている父上と、楚々としている母上が笑顔で、横に控えていらした。
わらわはバッと、その場で深々と叩首する。
面を上げよ、と威厳たっぷりの低い声が聞こえたので、ばつが悪い思いを抱えながら頭を上げる。そして父上を見ると、目の前の父上は困り果てた顔をしていた。
「全く、このお転婆娘め」
綺麗な黒曜石の様な瞳に自分が映ると、京はフッと柔らかな笑みを見せた。
「なんです、姫?何かありました?怖いとかですか?」
「怖いわけあるまい、わらわは武士の娘だぞ!」
「そうですね、でも普通の武士の娘はこんな事をしないんですよ。屋根に登り、駆け下りて、塀を跳び越えて城下町に行こうなんて。無謀・無策も良い所です」
「そこまで言わなくても良かろう!」
「はいはい、そうですね」
京の耳には全くわらわの言葉が届いておらぬ様で、相変わらず涼しげな顔をしていた。
悔しい、悔しすぎるぞ・・
唇を噛みしめながら、前を見ると、もう天守閣の方に近づいていた。京は何事もなかった様に、天守閣から入り込み、ストンと城内に着地した。そしてわらわの足が床を踏みしめた事を確認すると、ゆっくりと抱えていた腕を離す。
わらわと京が降り立った事により、混乱に陥っていた城内に安堵の声が広がった。
するとすぐに「お父上様がお待ち申しておりますよ」と、家臣の一人に急かされ、その部屋まで先導される。もうわらわを見失わない様にするためか、逃がさない様にする為か。わざわざ人が多い所を通り、前も後ろも人で固められる。
「京よ・・」
「はい、なんですか?」
「父上は、お怒りだと思うか?」
おずおずと後ろに控える京に尋ねると、「さぁ、どうでしょうねぇ」と肩を竦められるが。そう告げる顔が「怒られるのは、ご自分の責任」と言わんばかりだったので、わらわはぐぬぬと小さく怒りに燃えた。
そうして部屋の前に着くと、「姫様がお戻りになられました」と告げられる。「入って参れ」と、重々しく告げる声が帰ってくると、ゆっくりと開く襖。わらわは勘気に身構えながら、部屋の奥を見据える。
そこには、待ち構えていた様に腕を組み、どっかりと座っている父上と、楚々としている母上が笑顔で、横に控えていらした。
わらわはバッと、その場で深々と叩首する。
面を上げよ、と威厳たっぷりの低い声が聞こえたので、ばつが悪い思いを抱えながら頭を上げる。そして父上を見ると、目の前の父上は困り果てた顔をしていた。
「全く、このお転婆娘め」