うーんと唸りながら、わらわはがっちりと腕を組み、空を仰ぐ。
「父上の意見が全てじゃが、父上はなんと仰るかのぅ」
 顔を上に向けながら言葉を発したので、喉が締まり、呻く様な声になってしまった。
 すると唐突に京から「まぁ、姫。今あれこれ考えても仕方ないですし。考えるのをお止めになっては?」と、労いの言葉をかけられた。
 そんな事は今までなかったから、京の口から飛び出た言葉とは思えず、軽く衝撃を覚えながらバッと顔を戻して京を見る。
 すると京は哀れな目でわらわを見て「姫はあんまり頭を使わないので、知恵熱を出しますよ。そうなると俺達が大変ですから」と小憎たらしい口を叩いた。
 そうじゃよな、そうじゃよな。京がわらわを慰労する訳がなかったのじゃ。全く、わらわは何を思ったのかのぅ。つい数秒前のわらわは阿呆じゃ、うつけじゃ。
 フッと自嘲気味な笑みを零すと、代わりに総介が「無礼者めが」とすぐに噛みついてくれる。だが、その言葉でさえも「はいはい」と、京は飄々と受け流していた。
「主君に仕える身として、そんな態度が許されると思うているのか。京、拙者は口酸っぱく言っているはずだぞ。貴様は姫様に仕える者として自覚を持て、と。貴様のせいで姫様の格が落ちる」
「俺のせいで姫の格が落ちると思っているのか、総介。そんなお前もどうかと思うがな」
「何だと?」
 なぜだか不穏な空気になり、バチバチッと目から怒りが迸る。お互いバチバチと睨み合い、お互い柄に手が伸びようとしていた。
「やめい、やめい!すぐ喧嘩になるでない!」
 わらわが仲裁に入るが。仕える身云々と言っておきながら、主君であるわらわを無視して「貴様には思い知らせてやらねばならぬな」「思い知らす?随分傲慢な人間だなぁ」と冷淡な言い合いを続けている。
「いい加減、辞めぬか!」
 わらわが声を張り上げ、バチバチと睨み合っている二人の頭に拳骨を入れる。ゴツン、ゴツンッと二人の頭から鈍い音がし、柄に伸びていた手が頭に当てられた。
 はーっとわらわが呆れている目の前で、二人は頭を押さえ「うう」と呻き、痛みに顔を歪めていた。
「姫、何するんですか」
「い、痛うございまする」
 呻きの合間に苦々しく文句をぶつける二人に、わらわは主君として「黙れ」とピシャリと言い放つ。