「そう言った関係になれば、もう二度と美張の土地を我が軍が踏む事はない。そして他大名達に進軍された時、我が武田の軍勢が必ず力を貸す。相手が織田であろうが、斎藤であろうが共に戦おうではないか」
 美張を二度と侵攻しない且つ武田が味方となり戦う?こんなに頼もしく、嬉しい事はない。最強の軍勢が美張の後ろに付いたとなると、今よりも他大名達に進軍される事はなくなるだろう。
 美張だけでは、何の恐怖にもならないが。武田がいるとなると、それ相応の覚悟を持って、美張を攻め入らなければならなくなる。
 それほど、武田と言う名前は強い後ろ盾になる・・・・が。
「しかし・・それでは、わらわ達があまりにも有利なのでは?」
 そう、この話はわらわ達美張国にしか利がない。
 美張から手を引き、進軍される時は力を貸す。言い換えれば、武田軍勢は狙っていた土地を手放す事を約束すると言う事。それに数多く進軍される美張の助力なぞ、悪戯に兵を削ると言っても過言ではない。
 武田側からしたら、こんな同盟には何の利もない。むしろ、あまりにも不平等と言って良い程じゃ。
「いや、我らにも利はある。美張が進軍された時、我らが力を貸す様に。反対の事を主等にもしてもらうからの」
「我らが力を貸す、と?左様な事があるので?」
 わらわが少し唖然としながら尋ねると、武田は強く頷いた。
「知っての通り、我らは越後の上杉との戦中。規模が大きく、熾烈な戦いをしておる。故に、一人でも多くの才に恵まれた人間が必要なのだ」
 言葉だけではなく、真剣な眼差しで貫かれるが。すぐに「わらわではあまりにも力不足、お役に立てないかと思いまするが」と難色を示す。
 すると、すかさず「何を申すか」と声を張り上げられた。
「美張の戦姫と全国に名を轟かす主の力を借りれば、我らの軍は優勢となろうぞ。故に、主には一部隊の長として、我が武田軍勢の一員として戦場に立ってもらいたいのだ」
 ふむ、成程。これが武田の狙いか。
 わらわは力強く告げられた言葉を、しっかりと自分の中で噛み砕き、理解する。
 これは随分遠回しな言い方であるが。武田の傘下に下れ、と言う事であろう。
 傘下に下れと言うと、こちらも一国を背負う姫なので角が立つ。だからこんな言い方をしたのだろう。
 これはある種の脅し、じゃな。