だからか隣で聞こえる馬のパコパコと言う軽やかな足音に、良いなと羨まずにはいられない。
 馬に乗り、伸び伸びとしている京達が羨ましくて仕方がないわ。
 なんて思いを抱えながら、手持ち無沙汰の時を過ごす。時には、駕籠の中で軽く足を広げ、無駄にバタバタとしてみたり。緋天を抜いて、刃の手入れをしたりしていたが。
「姫様。直、城下町に入りますから。あと少しの辛抱ですよ」
「きちんとなさってくださいね」
 総介と京の声が、駕籠の外からしっかりと聞こえた。
 ようやくかと思いながら「うむ」と答えて、少し乱してしまった服装をキチッと正す。
 それからすぐに、外が賑やかになってきた。村はずれから来ていたからか、途端に賑やかさを感じて「お、おお」と少し尻込みしてしまう。
 ひょいと駕籠の窓から外を見ようと、顔を覗かせてみると。そこは美張よりも、大きな都市だった。建物の一つ一つが大きく、色々な店の看板がぶら下がっている。
「これが全国に名を轟かす、大名の一人。武田信玄の膝元か」
 規模が違うな、と改めて美張が小国である事を思い知らされる。
 それに民もしっかりとしていて、わらわ達の隊列を見て、慌てて深々と額づいている。これも美張では、絶対に見る事が出来ない光景じゃのぅ。
 わらわが感嘆していると、通り過ぎた後ろの方から「どこのお侍さん達?」「ねぇ、見た?前の彼ら、美形だったわぁ」と言う女性の黄色い歓声が飛んできた。明らかに京と総介に魅入られたと言う声。
 全く、うちの側仕え達はどこに行っても目立つのぅ。喜ばしい事なのかは分からんが、少し複雑じゃのぅ。
 わらわは側仕え達に向けられた歓声に、何とも言えない気持ちになった。だが、そんな浮ついた気持ちはすぐに消え失せた。
「美張の姫君様、おなぁぁりぃぃぃ!」
 仰々しい太い声が聞こえ、わらわの気持ちはスッと引き締まった。
 ようやく相対する事が出来る、最強の武将に。
 武田信玄、油断ならぬ敵の総大将。美張の戦姫として、しっかりと相まみえてやろう。
 ドキドキと心臓が早鐘を打っている。初陣の時とは、また違った種類の緊張に襲われ、自然と緋天に手が伸びて、ギュッと鞘を掴んでいた。
 そして駕籠がゆっくりと止まり、クルクルとすだれが上がる。
「「参りましょう」」