父上の袴から出ている足は左足だけで、右足の方はぺしゃんと床に布がくっついていた。
 そう、父上は右足を無くしていた。戦で切り落とされてからと言うものの、一人では立てぬし、歩けぬ体となった。無論、戦に立つ事も出来なくなった。
 その時は自害しようとしていた父上だったが、皆で必死に止めたのだ。命があるならば良いではないかと、母上があんなにも泣いていたのは生まれて初めて見たのだった。
 爾来、わらわが美張を守ると、父上の代わりに戦に立つようになった。
 弱り果て、悔しい思いに苛まれている父上の姿と、どうしようも出来ないと嘆き悲しむ母上の姿を見て。わらわは堅く誓ったものだ。絶対にわらわが守ってみせる、と。
 今は立ち直ってきて、父上も母上も依然と変わらぬお姿となったが。いつまでも父上の心には、わらわを将として戦場に出す事を悔やみ、憂いがあるのだ。
 わらわは項垂れている父上を見て「何を仰いますか」と朗らかな声をあげる。
「父上がこうして美張に居て、守って下さるからこそ、です。全ては父上のおかげです、何も気に病む事はありませぬ。いつもそう申しているではないですか」
 ニコリと柔らかな笑みを見せると、父上は顔をあげ、わらわの笑みを見つめた。
 そして弱々しく口元を綻ばせて「お前には敵わぬな」と呟く。
 わらわはその言葉を聞くと、より破顔して「では」と止めていた足を動かし、部屋を後にしたのだった。
 だが自室に着いた途端に、京が「絶対罠です」と不機嫌な声で反論をぶつけてくる。すぐそれに、総介が「そんな事は分かっておるのだ」と冷ややかに噛みついていた。
 京と総介も、わらわの側仕えとして先の場にいたのだ。わらわの数歩後ろに座り、何も言わず黙っていたので、まるで居ない様にも思えたが。
「取り敢えず、参ると言う事を伝えねばなるまいよ。総介、紙と筆と墨をここに」
「ハッ、すぐにお持ち致します」
 総介は歯切れ良く答えると、颯爽と立ち上がり、いそいそと部屋を出て行った。
「姫、絶対罠です」
 邪魔な反論者が居なくなった途端、より断固とした口調で訴える京。
 それに、わらわは困った顔で「分かっておるよ」と宥める様に答えた。
「姫を人質にするとかの話になりますよ、きっと」
「そうならない為にお前達も連れて行くのだから、心配はあるまいよ」