キリッとした精悍な顔、額には紺色の雷の入れ墨。真っ赤な瞳孔は鋭く縦長で、ギラリと光っている歯が剥き出しにされている。尖った耳は、どこまでも音を拾いそうだった。
 滑り降りる様に、九尾狐は悠々と京の作った濃霧に易々と入っていくが。ものの数分で、頭を突き出し、軽やかに空へ駆けていく。ぷらんと力なくしている雷獣を咥えながら。
「なっ?!」
 思わず、口から一単語が飛び出した。そして信じられないと言わんばかりに、大きく目を見開き、目の前の状況に慄然とする。
 いや、そんな状況に陥ったのはわらわだけではない。今、この戦場に居る人間全てだ。皆慄然としながらも、二匹の妖怪からは目を逸らせなかった。
 雷獣は死んだのか?九尾狐がやってきたのはなぜだ?九尾狐と言うのなら。アレは京と言う事か?いやでも、京だとわらわは感じなかったぞ。
 頭に、一気に膨大な考えがデタラメに羅列される。次々と疑問が生まれては、そのまま頭の中に居座り、互いの身を削り合う様にそれぞれの意見を主張し続けた。
 膨大な思考に、頭が追いつかなくなり、そのまま破裂するのではないかと、頭が限界を迎えた刹那だった。
 突如、ぶわっと戦場に霧が濃く広がった。分厚く、周囲どころか目の前ですらもハッキリとは見えない。周りに誰がいるのかも分からない。馬も、突如現れた分厚い霧に戸惑い、弱々しげにひひんと鳴き、その場でドスドスと足踏みをした。
 これは何だ。なぜ、突然霧が覆ったのだ?馬を走らせ、霧を出る方が良いか?いや、馬をむやみに走らせるのは得策ではなかろう。何があるのか分からないのだ。となると、霧が晴れるまで待つしかないの。皆はどうしているのだろうか、無事だろうか。
 理解出来ない事、腑に落ちぬ事が一気に起きすぎている。
 わらわはカチャッと緋天を構えた。何が起きても即座に対応出来る様に備え、霧が晴れるのを待った。
 だが、緋天を構えた瞬間。嘘みたいに霧が晴れていく。あれほど見えなかった目の前が、徐々に晴れだして視界が良好になる。緋天の刀身に太陽光が反射し、キラッとわらわの鎧に眩しく当たった。
 そして霧が全くと言って良いほど無くなった時、わらわは再び愕然とした。全身が総毛立った。
 わらわが居たのは、美張城の城下町の入り口だったからだ。