「武だけではなく、戦術にも才があるとはの。流石は戦姫、と言った所か」
「そなたに言われると、嬉しい様な気もするが。大将首が慌てふためいていると言うのに、助けにはいかぬのか?薄情じゃのぅ」
「良い、驕慢であった罰だ。それに儂は利発な頭もなく、相手を侮り、力を過信した愚か者を救おうとは思わんのでな」
 淡々と唾棄すると、昌続はギュッと柄を握り直して刀を構えた。
「この策は、賞賛に値するが。まだ戦は終わった訳ではない。構えろ、戦姫」
 ようやくわらわを強敵、とでも認定してくれたのか。益々奴の剣に殺気が乗った。それも、先程とは比べ物にならない。重たく、冷たい殺気が。
 圧倒されそうになるが、ここでわらわが怯む訳にはいかないのじゃ。
 自分を引き締める為、キュッと唇を真一文字に固く結ぶ。
 最悪、相討ちとなろうが。それでも構わぬ。家臣達には、命を散らすなと言っていた自分が。こんな事を考えるとは、大した矛盾だが。美張の戦姫として戦わなければならない。
 絶対に、ここで退いてはいけないのじゃ。
「行くぞ、緋天よ」
 小さく自分にも言い聞かせる様に、緋天をギュッと強く握る。緋天も震撼した空気に触れ、キイと鉄の音を響かせた。
 二つの目で、しっかりと昌続を見据える。
 幾度となく、こういう場面には相対してきた。その度に死を目の前に感じるが、すんでの所をいつも躱していた。そして必死に戦い、勝ってきた。
 だから今回だって、大丈夫じゃ。
 フッと息を小さく吐き出した瞬間、互いの刀が動く。ダダダッと馬も駆け出し、力強く主人を乗せて地面を蹴り上げる。
 再び、何も感じない世界に引き込まれた。風も止み、音もない。目の前の昌続だけが、ハッキリと映る世界に。
 刃がゆっくりと振り下ろされる、わらわも緋天を奴に向けて振り下げた。緋天の刃が奴の刃を受け止め、弾く。
 その瞬間、機敏に緋天の切っ先を戻し、顔に刃を向けた。相手の刃も、わらわの腕めがけて振り下ろされた。
 ザシュッ、ブシュッ
 ダダダダッとそのまま馬が駆けて距離を取る。そして手綱を引き、くるっと向き直り、相手を再び見据える様にその場に留まった。
 目の前の昌続の頬には、綺麗に真一文字入っていた。つうと鮮血が、褐色気味の肌に滴れ落ちる。
 よし、相手に一撃を入れられたぞ。と喜色を浮かべたいが。そうもいかないものだ。