こちらもただ受け止めるだけではやられるので、次々と来る刃を受け止めながら、緋天の刃を昌続に入れ込んでいく。
 受け止められ、攻撃され、受け止め、攻撃する。
 一刻の瞬きも、息継ぎも出来ない様な、熾烈な命の削り合いが繰り広げられる。
 だが、このままでは他の兵の動きが次に進めない。わらわがここで昌続を食い止めているのは、良い事でもあるが悪い事でもある。
 わらわは、美張を背負う大将なのだから。自身の軍を勝ちに導かねばならぬのだ。
 きんきんと打ち合いながら、わらわは頭の片隅に置いてある事柄を引っ張り出した。
 そろそろ頃合いか・・・
 そう思うや否や、昌続から距離を取り、口早に叫んだ。この騒々しい戦場に、よく響き渡る声で。
「京、総介!」
 横に浮いている狐火がぼおっと青白い光から、青一色に変わった。
「何のつもりだ、戦姫!」
 鋭い一太刀を受け止め、昌続の顔をしっかりと見つめながらニヤッと口角を上げる。ギリギリと緋天も挑発的に鳴り響いた。
「なに、直に分かるぞ」
 昌続の顔が、怪訝になった瞬間だった。
「うわああああああああ!?」
 突然敵方の後方陣営がざわつき、悲鳴が上がる。いや、それだけではない。右翼と左翼陣営も、ざわつき始めて、素っ頓狂な声を上げ出した。殺気に塗れ、過酷な戦場には不似合いの悲鳴が、次々と敵方で上がり始める。
 だが、異変は悲鳴だけに留まらなかった。静観を決め込んでいた後方陣営が前に前にと、慌てて中央に逃げ込んで来たのだ。
 それもそのはず。京が率いる軍勢が、どんどんと迫ってきているのだから。慌てふためき、中央に逃げてくるのはこちらの思惑通りと言うもの。
 案の定、雪崩れた所を前にいた美張の軍勢が斬っていた。そして横に逃げようとしていた奴らもいたが、それが叶わずにいた。総介の率いる軍勢に逃げ場を塞がれていたからだ。守友の兵達は行き場を無くし、周章狼狽したまま次々と斬られていた。
 あれほどあった兵力差が、この数分でグッと縮まっていく。
 すぐに戦況が読めた昌続は、わらわに向かって「やるのぅ」と賞賛の言葉を口にした。
「少数の軍勢であるというこちらの固定観念を利用するとはの。目の前に現れる戦姫率いる本陣は、あくまで忍ばせていた奴らの時間稼ぎ、囮と言う訳か」
「そうじゃ」
 鼻高々に答えると、昌続はフフッと初めて温柔な笑みを見せた。