「守友一人では心許ないから、たかが小国を潰すのにそなたが出張っているのか?それで大将は主ではないとはのぅ、随分ご苦労じゃなぁ」
 仕返しで挑戦的に言い、剛毅な姿勢を見せつける。
 すると昌続は分かりやすいくらいに、顔をしかめた。明らかに、不本意であると言うのが目に見える。
 大方、自分も上杉との戦に出たかったと言う所であろうか。
「殿のご命令とあらば、だ」
 苦々しげに告げられる言葉に、わらわはフッと失笑を零す。
「成程のぅ、殊勝な心意気じゃ。わらわの側仕えに聞かせてやりたいものじゃ」
 ニヤッと口角を上げながら答えると、昌続は刀を構え、手綱を持ち直した。
「戦姫よ。自ら戦に立つ意思を持って、ここにいるのなら。討ち取られても、文句は言うまいな?」
「無論じゃ、討ち取られるものならの」
 緋天を構え、お互い、殺意をビシビシとぶつける。
 わらわ達の周りだけが、凍り付いた様に張り詰めた空気になった。冷たい緊張感のせいか、緋天が小さく唸る様にカタカタと震える。
 そして同時に、互いの馬の蹄鉄が地を蹴った。わらわ達しか動いていない世界に引き込まれた様に、周りが止まって見えた。いや、全ての動きがゆっくりになったと言うべきか。
 昌続の刀が、わらわの首を目がけて向かってくる。わらわもそれを受け流す様に、緋天をぶつからせた。
 きいいいいん
 互いの刀身がぶつかり合い、甲高い悲鳴の様な金属音が周囲に響く。
 打ち損じて、互いにもう一度距離を取る様に向き直った。馬の蹄鉄が、どすどすと地面を何度も抉り、その場には幾つもの蹄鉄がくっきりと付く。
 わらわは馬の上で、体勢と呼吸を整える。ふと視線を手元に落とすと、緋天を持つ手がビリビリと震えていた。
 なんて力じゃ、流石歴戦の武将だな。一太刀受けただけで、この有様か。
 グッと奥歯を噛みしめ苦虫を潰した様な顔をしていると、目の前の昌続は殊勝な顔をしていた。
「やるのぅ、戦姫」
「まだまだじゃ!」
 ギュッと震える手に力を込め、もう一度力強く緋天を握る。緋天自身も、まだやれるという風に、自分と打ち合った昌続の刀を睨んだ。
 昌続の馬が嘶き、わらわに向かってもう一度突進してくる。わらわももう一度馬を引き、昌続に向かって突進する。
 きぃん、きんっ、きんっ!
 初撃を受け止めるが、すぐに二手、三手と刃がわらわの体を切り裂こうと動く。