恐らくお互い、ピリピリと冷たい怒気を放っているだろう。前を走るわらわにもしっかりと突き刺さり、分かる程だ。後軍はもっとヒヤッとしているだろう。
 全く、これから戦で戦わねばならぬと言うのに。仲間内で争ってどうするのだ・・・
「ところで、姫様。これから我らは予定通りに?」
 総介が前を走るわらわに聞こえる様に、声をやや張り上げて尋ねる。
「うむ、そうじゃの。総介も京も、策通りに動いてくれ。軍に何かあった場合、特に雷獣が来た時はすぐに連絡しろ。京、頼む」
 わらわが申しつけると、すぐさま妖しげな青白い狐火が、ふわんふわんと横に付いた。つかず離れずの距離を取り、ふわふわと空中を揺蕩う様に進む。
「では、姫様。我らはここで!」
「うむ、任せたぞ総介!」
「ハッ!」
 歯切れ良く答えると、総介が大きく左に逸れてわらわ達から離れる。総介がまとめ上げている部隊も、総介の後を急いで追うようにして離れて行った。
 残るわらわと京、そして残りの兵士達だけで道を進んで行く。
「しかし姫、ここまで来てなんですが。本当にやるんですか?」
 いつもの飄々とした声に聞こえるが、その声には不安が混じっていた。
「今更何を言うか、京。主も良いと言うたであろうが」
「いや、俺は言ってませんよ。姫達が勝手に決めた事です」
「口が減らぬの、こんな時だと言うのに。もうつべこべ言うでない、この策が一番なのだ」
 素っ気なく返すと、京は「でも」と反論を口にしかけるが。
「わらわの身を案じるよりも大切なのは、美張を守る事であるのじゃ。京、此度の戦では主の協力が不可欠だ。やってくれるな?」
 京が反論を言う前に、わらわが力強く窘めた。それでもう諦めがついたのか、らしくなく「ハッ」と気弱な声が返ってきた。
「では、俺はここで。姫、何かあればすぐに狐火で連絡を。戦姫ではあるかもしれませぬが、自分は人間だと言う事をお忘れなきよう」
 京も総介と同じように、隊列から離れ、右へ大きく逸れて行った。
 完全に釘を刺されたな。京らしい心配の仕方だが、それを真摯に受け止めるには難しい。命を張って戦わなければならない、美張を守る為じゃ。
 そう。美張を守る為なら、些かの無茶も詮無きこと。美張の戦姫として、やるべき事をやらねば。絶対に美張を守らねば。
 わらわは手綱をギュッと掴み、気を引き締めてから「ヤッ!」と馬を力強く走らせた。