「じゃが、京一人を相対させる訳にもいかぬ。しばし考える必要がある、無論武田の事もな。もう少し情報が欲しい所じゃ。故に、まだ主達にも働いてもらうぞ」
 強く宣言すると、京と総介は揃って「御意に!」と叩首した。
 その時、揃っていたのは声を発する瞬間だけではなかった。声の大きさ、頭を下げる角度も打ち合わせをしたかの様に、全てピタリと揃っていた。
・・・・・・・・・
「良いか、此度の戦は絶対に負けられぬ!」
 兵達を前に、甲冑を着て、戦の準備万端なわらわが声を高らかに張り上げると、地響きの様な「うおおお」と言う雄叫びが聞こえる。
「戦で散る事が名誉な事ではない、生きてこの美張を守りきってこそ名誉なるもの!
 乱りに命を散らす事は、わらわが許さぬ!良いな!討ち死にも許さぬぞ!そなた達も大切な美張の民だと言う事を忘れるでない!わらわ達の美張を守れ、勝機は我らにある!」
「うおおおおお!」
「愚かな武田にわらわ達、美張の力を思い知らせるのじゃ!」
 シャッと緋天を抜き、天に掲げると、前の兵士達は「うおおおおおおおおおお!」とより声を張り上げた。
 美張が震撼した様に、地面がぐらっと揺れ、パリパリと砂利が地面から飛び跳ねた。
 用意されていた馬にまたがると、兵士達の間でより士気が高まる。
「行くぞ!」
 緋天を掲げながら、手綱をぐいっと引くと、馬が大きく嘶き、力強い足で地面を蹴り出した。
 ダダッダダッダダッ
 一定のリズムを刻みながら、馬は力強く地面を蹴り上げ、戦地に向かい走っていく。
 わらわが先陣切って走り、両翼の様に京と総介が横で並んで走っていた。後ろには美張の大切な家臣達がついてきている。
 絶対に武田を打ち負かし、わらわ達が美張を守り抜く!もう二度と、この美張に進軍しようなんて言う気を起こさせない様にしてやるわ!
「姫は相変わらず、兵の士気を高めるのがお上手ですよね」
 唐突に京が馬を駆けさせながら、飄々と言って来た。
 これから戦だと言うのに、本当にこやつは・・・・。
 わらわが呆れながら口を開こうとした瞬間、先に口を開いたのは総介だった。
「貴様、今がどんな時だか分かっておるのか」
 ピシャリと冷たく言い放たれ、大人しく「はいはい」と引き下がる声が聞こえた。流石に、今総介とやり合うのは分が悪いと踏んだのだろう。
 だが、後ろから突き刺す様な冷たい何かを感じる。