いつもも真面目だが。変な所も相変わらず真面目だな、総介は。少しは横にいる、臆面も無く、飄々としている奴に見習って欲しいものだが。
「して、信濃の情勢はどうであったか。戦の前触れが起きそうだったか?」
 面を上げた総介に本題を切り込むと、総介はキリッと真剣な顔つきになった。
「やはり武田は、ここ美張を落とそうと画策しておる腹づもり。なれど、武田には懸念があるようで」
「懸念?」
 眉をひそめると、総介は「はい」と強く頷いた。
「越後の上杉謙信との戦でございます」
 越後の上杉・甲斐の武田と言うほど、この二人はしのぎを削る間柄だ。越後の龍と甲斐の虎と称されるほど、大将二人の争いは凄まじいものだと、ここ美張にも届いているが。
 その片手間で、ここを落とそうと言うのか?
「成程。武田の奴め、舐めた真似をしてくれるわ」
 自然と声が低くなり、怒りと悔しさが滲んだ恨めしい声で呟いた。
「姫様の仰る通りにございます。武田は傲慢でする。われらの力を軽視するとは、許せぬ事!これは侮辱の他なりませぬ!」
 総介の言葉に耳を傾けながら、沸々と武田への怒りが湧き上がり、ギュッと拳を堅く作った。
「武田が攻めてくるとしたら、いつ頃になりそうじゃ?」
「四、五日以内かと」
「四、五日か。充分じゃ。信濃と美張の狭間でぶつかるぞ」
 怒り心頭のまま、唸る様に答えると「姫」と冷静な声が割って入った。声の主である京を見て、「なんじゃ」と少し遅れて尋ねる。
「妖怪達が黙っているとは思えません。ですから、妖怪の策も練らねば」
「ああ・・そうか。そうであったな。妖怪達もおるのを忘れていた。京の言う通り、妖怪の動きにも気を配らねば。奴らに敵味方は関係ないからの」
 京の言葉を聞き、そう言えばと冷静を取り戻し始める。怒りの熱を冷ましながら、色々な思慮を頭の中に並べた。
 戦場では死者が多く出て、悲しみや憎しみが生まれる絶好の機会。だからこそ、妖怪達はこぞって現れる。
 妖怪によって、戦況が一変する事はざらにある。両軍滅ぼされたと言うのも、よくある話じゃ。そして滅ぼした所を自分の領地や国として吸収し、人間の真似事をし始めると言うのも聞く。最初は全くその傾向が無かったはずなのじゃが、最近の妖怪達はそうではない様に見える。