誰のせいでこうなっていると思っているのか。わらわは憎たらしい顔をしている京を睨まずにはいられなかった。
 もう一言、ぶつけてやろうかと思い、口を開こうとした刹那。
「キャアアアアアアアアアアア!」
 空を切り裂くような甲高い悲鳴が聞こえ、わらわは京を連れて、急いで悲鳴がした方に向かう。
 女性の悲鳴だけが聞こえていたが、騒ぎの方に向かうにつれ、悲鳴をあげながら逃げ惑う民の姿が見えてきた。
「何事じゃ?!武田の軍勢が攻めて来たのか?!」
 咄嗟に逃げてきた男の肩を掴み、立ち止まらせると、「ひ、姫様!」と素っ頓狂な声を上げる。
「ち、違います!武田じゃありません!妖怪です!妖怪が襲ってきたのです!」
「妖怪?!」
 思いもしなかった言葉に、愕然としてしまう。
 ついさっき京と話したばかりだが、ここには妖怪が襲ってこないはずではないか。これが京の言う、妖怪に絶対的保証はないと言う事なのか。
 止まりそうになった思考に鞭を打って無理やり動かし、止まらせていた男の肩を離し
「安全な所にいっておれ」
 と端的に告げると、男は「はい!」と答えて脱兎の如く駆け出した。
 そしてわらわ達は、その男と反対方向に向かって走っていく。砂利道の砂利をパチパチと跳ねさせながら駆けていくと、騒ぎの元になった妖怪を見つけた。
 豊穣祭のシンボルでもある、稲を奉っている所に突っ込むオオムカデの妖怪の姿が、しっかりと視界に入る。
 民達が一生懸命育てて奉った稲を食うだけに留まらず、豊穣の神が降り立つ場所を壊すとは。不届きも良い奴じゃな。
「姫、あれは下級妖怪ですよ。俺がやりますね」
 ボッと京の手のひらに、青白い狐火が浮かび上がるが、すかさずわらわは首を振る。
「何を言うか、京。わらわがやる。お主は手を出すなよ、補助は頼むがな」
 ニヤリとほくそ笑みながら、腰に差してある愛刀の柄に手をスッと添えた。
 それを見て、意思をくみ取ってくれたのか。京は短く息を吐いてから、手のひらの狐火を消した。
「わらわが斬るから、主はわらわを上げてくれ」
「御意」
 京が短く答えると、走っていた体がふわんと空中に浮いた。
「よし、そのまま速度をつけてあやつにぶつけろ。思い切りやれよ」
「ハハッ」
 ふわんと浮いていた体が、オオムカデの妖怪に引っ張られる様にガクンと前のめりになり、空中を素早い速度で飛んだ。