戦妖記~小国の戦姫~

 なかなか死を迎えられない、妖狐として生きる俺を思っての言葉に他ならない。胸が熱くなり、こみ上げる思いが涙となって次々と溢れてくる。
「それは、ずるいですよ。姫」
 俺の涙がぽろぽろと睫から零れ落ち、小さな雨の様に姫の顔に滴り落ちた。
「フフフッ。いつ、もの、仕返しじゃ」
 姫はいつもの様な輝く笑みを見せて、「京」ともう一度名前を呼んだ。
「約束じゃ、わらわを。必ず、見つけて、くれ」
「必ずや、姫を見つけてみせます。お任せ下さい・・・お任せ下さい」
 しっかりと姫の手を握りながら答える。
 俺の答えを聞いた姫は、柔らかく口元を綻ばせ「京」と小さく俺の名前を呼んだ。
 そしてぱくぱくと口を動かしてから、瞼をとろりと降ろした。最期の最期まで、俺を見届けようとしてくれているかの様に、時間をかけて。
 そうして姫の息がフッと不自然に途切れ、握っている手からもするんと力が抜けていく。
 俺は力が抜けた姫の手を強く握り直し、「姫」と掠れた声で呼んだ。
 だが、姫はもう一度目を開けてはくれなかった。蝶がひらひらと顔の近くを舞っているのに、それを見て微笑みもしてくれなかった。
「姫・・・姫・・・姫」
 姫の体を強く抱き寄せながら、何度も呼ぶ。すると先程よりも、姫の顔にポタポタと俺の涙が滴り落ちた。
 そして、俺の慟哭が部屋に響く。
 だがそれは、パチパチと嬉しそうに城を破壊する炎の中に消えた。それでも涙を流しながら抱きしめ続け、姫と力の限り呼び続ける。
 そして遂に、炎がパチパチと部屋を侵食し始めた。城を支えている柱が、めきめきとゆっくりと倒壊していく。勿論、城だけを破壊していく訳ではなく、黒煙が気管支に入り込み、熱と共に俺の体を蝕んでいた。
 姫と掠れる声が熱にやられ、更に掠れていく。涙も熱で乾き、煤が顔につき始める。
 俺は姫の耳元で「必ず貴方を見つけます」と囁き、ゆっくりと影の世界に姫を沈めていった。姫の体は、足からゆっくりと沈んでいく。別れを惜しむように、ゆっくりと時間をかけて。
 そして遂に姫の顔が、影に沈んだ。俺は奥歯を噛みしめ拳を堅く作りながら、沈んで行った姫を見つめ続けていた。
 それから総介の方に移動し、総介の体も影に沈めていく。