戦妖記~小国の戦姫~

「今際の、際、だから。では、ないぞ?きっと、主と、出会った時。から、ずっと。わらわは、好いていた。気がつくのが。あまりに、も、遅かった、が」
 俺は姫をギュッと優しく抱き寄せて「俺も、です」と囁く様に告白する。
「俺も、姫をお慕いしていました、ずっとです。それはこれからも、ずっと変わりませぬ。俺は貴方だけを想い続けるし、愛し続けます」
「そう、か。それは、嬉しい。事を、聞いた、のぅ」
 俺の耳元で、姫は弱々しくも嬉しそうな声をあげた。
 その時、姫の腹に当てていた狐火の火が小さくなっていく。俺の中の妖力が消えていくのをハッキリと感じ取った。
 まだだ、まだ耐えてくれ。姫が奇跡的に息を吹き返したのだから、まだ消えないでくれ。俺の前からもう一度連れて行かないでくれ。頼む、まだ耐えてくれ。
 ギュッと唇を噛みしめながら、力を込めて狐火を保とうとする。だが、その火は残酷にも、容赦なく風前の灯火になっていく。
 火が段々と小さくなっていくにつれて、姫の呼吸も小さく途切れ途切れになってきた。
「京」
「はい、何ですか。姫」
「あの夜、の様に。あの、蝶をもう一度。わらわに見せてはくれまいか」
「で、ですが。今それに力を回してしまうと。癒しの狐火が」
「それは。もう良い。やってくれ、頼む」
 虚ろな目で俺を見据え、弱々しく頼み込む。俺はその姿にギュッと目を閉じてから、意を決した様に火を消した。
 そしてそのまま手のひらを上にし、あの満月の夜の様に、真っ白に輝く蝶を姫の顔の前でヒラヒラと舞わせる。
 姫は虚ろな目をなんとか大きく開けようとしながら、現れた幻の蝶を嬉しそうに見つめた。「やはり、実に。見事、じゃなぁ」と呟き、微笑みを零す。
「京」
「はい」
「主は、生きて、くれ、よ」
「姫を先に逝かせるばかりか、姫がいない世界で生きろと仰るのですか」
 残酷な言葉を告げられ、俺は思わず悲しい怒りをぶつけてしまった。だが姫は微笑み、「京」と、窘める様に俺の名前を口にする。
「わらわは、必ず、輪廻に乗り、転生する。だから、主はもう、一度。わらわを、見つけてくれるか。それが、出来ぬ主、では、なかろ?」
 俺は、その言葉にハッとした。
 この方は本当にずるい。居なくなった後の世には生きる意味がなかった俺に、生きる意味を与えた。未来を与えた。暗澹とした未来に、光明を差し込んだ。