戦妖記~小国の戦姫~

 俺は親方様達の時に、それを痛い程思い知った。悔しいが、自分の力には人を死から呼び戻せる力はないのだ、と。
「姫、お願いです。目を開けて、目を開けて」
 自分の声がどんどん掠れていくが。俺は呼び続けた、「姫」と。瞼から溢れ出そうな涙を必死に堰き止めながら。最悪を描きそうな思考を必死に消しながら。無くなっていく妖力を全て狐火に込めながら。俺は、何度も姫の体を揺らして呼び戻す。
 けれど、姫はぴくりとも動かず、瞼を開ける事すらもしなかった。いつもはすぐに「なんじゃ」と微笑み返してくれるのに、今は全く返してくれない。
 俺はまた間に合わなかった、遅かったのだ。遅すぎたのだ。俺はいつも遅すぎる。俺が駆けつけた時には、もうすでに終わってしまっている。
 グッと奥歯を噛みしめながら、ぶわっと狐火の火力をあげた。ぼうっと白い狐火は大きく上がり、修復力を上げていくが。その引き換えの様に、自分の中にある妖力が枯渇を迎え始めていく。
 でも、それで良い。俺の妖力が無くなろうとも、姫が戻って来さえすれば。それで良い。
「お願いです、姫。起きて下さい、姫。俺を置いていかないで下さい、俺は貴方がいなきゃ生きる意味を無くしてしまう。姫は俺の全てなんですよ、だから。だから、俺を置いて逝かないで下さい、姫」
 ギュッと動かなくなった体を強く抱きしめ、姫の額に軽く自分の顔を押しつける。
「あた、たかい、のぅ」
 か細く弱々しい声に、ハッとなり、顔を離して姫を見ると。頑なに閉ざされていた瞼がうっすらと開き、姫の目が再び俺を見つめ返してくれた。
「京、か」
「姫!もう喋らないで下さい!ご安心を!俺が必ずや治してみせます、絶対に!」
 俺は姫を強く抱きながら、必死に訴えるが。姫の血に塗れた手が弱々しく動き、俺の手にゆっくりと重なった。
「京に。言いたい、事を伝えられずに、逝くの。は。ひどく、悔やむ所で、あった。京の、おかげで。伝えられる、機会が。出来たな」
「絶対に治してみせます故!これが最期な訳がございません!だから、まだ!」
「京。わらわは、主が好きで。あった」
 思わぬ言葉に唖然とし、口から「えっ」と間の抜けた言葉が漏れた。俺の聞き間違いかと軽く目を見張るが、視界に映る姫は弱々しい笑みを称えている。