戦妖記~小国の戦姫~

 これが泡影だ。死が影として襲いかかり、肉体的な死も、魂的な死もさせてもらえず、影となり影の世界へと消える術。再びこの世に現れる事もない、影の世界で自我や肉体を保つ訳でもない。自分を失い、影として消滅させられるだけの虚しい術。
 次々とはじけ飛んだ影狐の液体を浴びた者達の体から影狐が現れ、次々とばくっと飲み込まれ、その場から妖怪も人も消えていく。
 阿鼻叫喚の地獄絵図が広がった。影が付いた者は影狐から必死で逃げようとするが。逃れられずに、影狐に取って食われ、その場から消えた。
 俺はその混乱に乗じて、びゅおっと風をきる様に進み、城に飛ぶ。
 もう城の炎は大きく燃え広がり、消火が出来そうな状態ではなかった。ガラガラと倒れる音もする。支えが燃えて、城がバキバキと陥没していっているのだ。
 人の声がしない、ただパチパチと炎が憎いくらい楽しそうに弾ける音しか。
 俺は心中に暗雲を広がせる炎を臆す事なく、炎と共に天守閣に突っ込むが。俺はその場で、呆然と立ちすくんだ。
「ひ、姫・・・・」
 再び俺の目に絶望が映る。あの時と同じ、親方様と奥方様を見つけた時と同じ。
 いや、それ以上の絶望が。俺を容赦なく襲った。
 血塗れの懐刀が近くに転がり、腹から流れ出ている血溜まりに伏している姫。そして姫の少し離れた所で、総介も同じようにして倒れている。
 総介の目は虚ろなまま開かれ、俺を静かに見据えていた。俺が来たと言うのに、何も言葉をかけない。変わり果てた相棒の姿に、心が引き裂かれた。
 俺はグッと歯がみし、願いを込めて急いで姫の上半身を抱き起こす。
 だが、だらんと姫の体は力なかった。姫の顔も、ただ良い夢を見て眠っている様だった。
 ああ・・・嘘だ、嘘だ。姫が死んだなんて、嘘だ、嘘だ。
 同じ所に心は深い傷を負わされ、バラバラと粉々に砕けていくが。まだ諦めるなと理性だけが必死で働いた。目の前の現実を受け入れきれず、固まっている体を無理に動かして、姫の腹部分に手を当てる。
 ざっくりと開き、内臓がまろび出ている腹にぼうっと真っ白の狐火を当てた。
 親方様達は救えなかったが、姫は絶対に死なせるものか。
 癒しの狐火はとろとろと流れる血をゆっくりと止めるが、深く傷つけられた内臓は戻らず、なかなか傷が塞がらない。
 人間としての機能が停止しているものには、癒しの狐火は使えない。