戦妖記~小国の戦姫~

 フッと目を閉じ、口元を綻ばせてから、思い切り腹に懐刀を突き立てる。ピュッと自分の鮮血が外の世界に飛び出したが、更に深く腹に傷を作っていく。とんでもない痛みが襲い、言葉にならない痛みが体中に駆け巡る。
 これが切腹の痛みなのか、刀で腹を抉ると言うのもこんなにも痛いのか。
 わらわはドサッと前のめりに倒れ、床に伏した。丁度、そこはあの時父上が伏せていた場所と同じだった。
 どくどくと腹から血が流れ出す感覚がする。痛みと言う感覚が体をぐるぐると巡るが、次第に痛みよりも色々な思いが溢れてきた。
 京一人を戦わせたまま、こんな形で死んでしまうとは。本当に情けない主じゃな。いや、京が外にいてくれて良かったのやもしれん。こんな無様な姿を見せとうはないし、京は妖怪じゃ。
 ここでわらわ達が死のうとも、京だけはまだ幾年月を生きられる事が出来る。妖怪だからこそ、長く生きる。歩む時間も違う。
 だからこそ京だけは、生きねばならぬ。
 長い年月を生きれば、わらわ達の事も忘れるであろう。まあ、それは少し寂しい事だが。いつまでも、妖怪の京をここに縛り付けておく訳にはいかぬ。
 そうじゃ。京は生きてくれれば良い。あれは強いし、心持ちもしかとしている奴じゃ。京が生きてくれれば、滅びゆく美張を覚えておる者も増えよう。
 ・・・うん?なんだか感覚が遠のいてきた気がするのぅ。総介はもう逝ったか?隣にいると言うのに、全く分からぬな。
 だが、安心せよ。総介、わらわも直に最期を迎えるからの。
 最期、最期か。何を考えようか。と思うても、いかんせん京の事ばかりを考えてしまうわ。
 京は無事か、京はこれからどうして生きるのか。もう一度京に会いたい、そんな想いばかりが溢れる。
 我ながら、どれほど京を想うておるのかが分かるのぅ。情けないものよぉ。・・・いや、情けなくはないか。それが普通の女子と言うものではないか。
 そうじゃ、こんなわらわが唯一女子の様に振る舞えていた証じゃろうて。わらわも、きちんと女子なのだ。戦姫だなんだと言われても、女子には変わらなかったのじゃな。
 わらわは京が好きじゃ、今までもこれからも。直接言えぬ事だけが口惜しく、辛いがのぅ。詮方なき事じゃな。
 自分の思考に思わず口元が緩むが。もう唇を動かす事すらままならず、弱々しい笑みとなった。