戦妖記~小国の戦姫~

 微笑みながら、一度言葉を区切り、涙で顔を濡らしている家族達を一人一人見つめた。最期に彼らを記憶に、心に強く刻んでおこうと思ったのだ。来世でも彼らを見つける事が出来る様に。
 そしてわらわは、久しぶりに心からの笑みを見せた。だが、目の前の家族達は、先の言葉を聞きたくない様にして顔を伏せ、わらわの笑顔を見ている者が少なかった。
 それでも良い。主等が悲しみに暮れようとも、わらわは幸せな気持ちでいっぱいじゃ。
 そうしてむせび泣く家族を前に、笑顔でゆっくりと告げる。
「今すぐに部屋を出よ、そして城に火を付けよ」
「・・ハッ」
「皆、最期までご苦労であった」
「・・・ハハッ」
 今までで一番弱々しい答えを聞いた。最期の返事が、こんなに惜しむような悲しみで溢れるなんて。わらわはまことに幸せ者じゃ。
 家族達はゆっくりと立ち上がり「拙者は最期まで戦いまする」「親方様と共に逝きます」などの言葉を次々と投げかけてから、部屋を出ていった。
 だが、総介だけは信じられない様に呆然として、その場で立ち尽くしていた。それは皆が涙を流し、床に膝をつけている時からだ。
 わらわは破顔し「総介。ここへ」と、いつもの様に近くに呼び寄せる。
 そしてわらわがドサッとその場に座ると、総介もゆっくりといつもの様に、目の前に座った。
「主は特別であるからの。どうしても、どうしても別の言葉を残しとうてなぁ」
「姫様・・・・」
 総介の膝に乗る手は堅く拳を作りながら小さく震え、目からはつうと涙が流れ落ちた。
 初めて見る、総介の涙。その涙は悲しみを必死で押さえながら、自分の気持ちを抑制していると分かる。あまりにも苦しい涙だった。
 わらわは総介に柔らかく微笑んでから、言葉を紡いでいく。
「色々とな、主には言いたい事があるのじゃ」
 そう、色々と言いたい事がある。彼らには特別な言葉を残して、逝きたい思いがある。
 それなのに、今際の際となったからか。言葉がいつも以上に、うまく纏まらない。乱雑に、頭の中であれやこれやと並ぶだけ。何から言えば良いのか、ほとほと分からなくなってくる。
 言葉を考えあぐねていると、外も城内もギャアギャアと悲鳴があがり始めた。そして城が焼け焦げる匂いがつんと鼻腔を刺激した。全てを飲み込もうと炎がごうっと唸り、パチパチッと凄まじい破裂音も聞こえ始める。
 最期の時が、そこまで来たのぅ。