戦妖記~小国の戦姫~

 切羽詰まった声だが、普段の声よりも何倍にも弱々しい声にハッとさせられ、わらわは総介を見つめると。忸怩たる思いにかられた。
 総介はしかつめらしい顔をしているが、戸惑いや弱気な心が隠し切れていない。
 あぁ、わらわは何をしておるのじゃ。共に戦う者を不安にさせてどうするのじゃ。
 大将がそれではいかんじゃろうて。
 何を怖じ気づいておる、何を恐れておるのだ。大将が弱気になった時点で、戦は負ける。それが定石ではないか。
 千和よ。父上はそんな事を一度たりともしなかったぞ、どれほどの窮地に追いやられていたとしても。殿はこんな顔を見せなかったぞ、死地の前線に立っていても。
 わらわは長だ、長としてやるべき事をせねばなるまいだろうが!
「やる事は変わらぬ、目の前の敵をただ斬るだけじゃ!皆、構えよと伝えろ!」
「ハッ!」
 総介が端的に答え、急いで部屋を飛び出した。
 わらわはその後ろ姿を見送りながら、キュッと一文字に口を堅く結び、緋天の柄を強く握った。
 どどどどっと死へと誘う足音が、すぐそこまで迫ってきているのが分かる。あれだけ閑静な町だったが、あっという間にいつもの喧噪を超えて来た。
 妖怪軍の方が攻め入る時が速い様だな。先に取って食らおうと言う魂胆なのか、織田が妖怪だけで充分とみたのか。どちらかが真意なのかは分からぬが。妖怪軍が逸っている様に見えた。
 その時だ。
 突然、美張城と織田・妖怪軍の丁度中央から、青白い色をした大きな炎が燃え広がった。いや、炎が空から降ってきたと言うべきか。
 どおおんっと言う凄まじい爆発音をさせ、ここにまで衝撃波と熱波を届ける。
 織田軍は妖怪達よりも遅かったからか、その炎に巻き込まれはしなかったが。妖怪軍の方はもろに食らい、ギャアアと言う悲鳴を上げながら炎に焼かれ、絶命していく。
 そして空からゆっくりと降り立ち、美しく神秘的と感じる程の妖怪が、美張城を背にして空中で佇む。風でそよそよと揺れる真っ白な長い髪、頭からピンと生えた縦耳。ふわふわと左右に揺れる九本の尾。華奢とも思える綺麗な後ろ姿。
 わらわが会いたいと思っておった人、謝りたいと思っておった人。
「京・・・」
 わらわが呟くと同時に再び青白い炎が大きく燃えあがり、城下町と共に織田・妖怪の両軍を焼く。ここからでもよく耳に入る程の大絶叫があがるが。
「姫」