真剣に面を見つめながらハッキリと言う京。まるでこの面に、何らかの闘争心が芽生えたようで、「俺はこんな変な顔じゃないですからね、姫」と繰り返す。
 たかだか狐の面だろう?そこまで意固地になり、対抗心を剥き出しにして、面が変だと言う奴はおらぬのだが。
 なんて突っ込みたくなったが、グッと堪えた。そんな事を言えば、倍返しにされるに決まっている。あれこれ掘り出されて、結局こっちが羞恥を覚えるのが目に見えるわ。
 その為、大人しく「もうそこまでにしておけ」と言う事だけに留めておいた。
「まあ、しかし。本当に美張は平和ですね。祭りに参加すると、それが身に染みます」
 しみじみと呟く京に、わらわはフフッと笑みを零した。
「そうじゃのぅ。この平和を保ち続けたいものだ。まあ、四強に睨まれているから、ちと厳しいかもしれんが。奮迅するしかあるまいよ」
「妖怪達が襲ってくるかもと言う事は、気にかけていないのですか?」
「京がいるおかげで、ここは攻められないと言うのが分かっておるからの」
 そう、この美張の主な敵は武田・織田・斎藤・今川の四強だけ。ここは妖怪に襲われない国なのだ。他国では、妖怪の被害が相次いで報告されているのにも関わらず、だ。
 その訳は、他ならぬ京にある。妖怪側が、京に手を出すのはマズいと踏んでいるらしいのだ。それもあって、美張は妖怪に襲われない国としても名を馳せている。
 故に戦では、敵は人間だけに絞れて、一戦一戦を集中する事が出来るのだ。
「成程、でも万が一ですよ。万が一、妖怪が攻めてきたらどうします?妖怪共は軽挙妄動の奴が多いですから、襲ってこないと言う絶対的保証はありませんよ」
「その時は、斬るしかあるまい。詮無きことだ、話し合いで大人しく帰る相手でもないからの」
 京はわらわの言葉を聞くと、成程と堅く頷いた。
「もし、ここが妖怪に襲われる日が来てしまったら。京としては、厳しい立場かのぅ?」
 ニヤッと目を細めて、意地悪な質問をする。いつもの仕返しという風に尋ねかけたはずなのに、京はフッと蠱惑的な笑みを見せた。その妖しげな笑みに、わらわはどきりと胸が高鳴る。
「姫、俺に何を言わせたいので?」
「べ、別に」
 スッとその笑みから視線を逸らし、目を泳がせるが。「はて、そうですか?」と、目の前でいやに恭しく言われる。