戦妖記~小国の戦姫~

 幾多の妖怪共が束になり、織田軍と共に向かってきていると言う事だ。その妖怪達を束ねる様に、中央に位置する妖怪側の将は・・・。
 暗雲を広げて、雷をゴロゴロと鳴らしながら空を滑る様に進む大きな四足獣。忘れもしない、あの恐ろしい姿。
 雷獣じゃ・・・。
 どうして雷獣が?どうして妖怪が軍として形を成しているのじゃ?どうして織田と共に攻め入ろうとしているのじゃ?妖怪がどちらの側につくなぞ、今までない事ぞ。妖怪が付いたと言うのか?どうしてそんな事が出来たのじゃ?
 衝撃の展開に、頭の中で疑問が一斉に生まれ「どうして」が強く反芻され、真っ白になっていく。
 織田の軍勢だけでも万は越えようというのに、妖怪が軍として加わるとなると。攻め入る数は五万以上になる。
 ここを徹底的に潰すつもりか、織田め。小国だからと侮る事をせず、その周到さは噂通りと言う事か。
 ダンッと強く拳を柵に打ちつけ、憤懣としながら大軍の中央を走る奴を睥睨する。
 黒と金の重そうな甲冑を纏い、織田の家紋である木瓜紋が輝く兜。遠目からでも分かる、野心と闘気に溢れた武将織田信長を。
 あんな大軍勢が、こんな場所に攻め入ろうと言うのなら、三十分持ったら良い方じゃ。これでは奴に刃を入れるどころか、刃を届ける事すら厳しい・・。
 いや、いかん。戦う前から、そんな事を考えるでない。そうじゃ、わらわ達だって今川殿の軍勢が後詰めとして押し寄せるのだ。それならば、こちらにも勝機はある。まだ負けたと決まった訳ではない。
 グッと奥歯を噛みしめると、ダダダッと慌ただしい足音が近づいてきた。
「お、親方様!ご報告が!」
 総介が声をひっくり返しながらやってきて、急いで膝をつくが。わらわは「分かっておるわ」と冷淡に一蹴する。
「今川殿の援軍はまだか」
「未だに姿は見えませぬ!」
 最悪とは、本当に幾重にも重なるものよ。もう開戦間近だと言うのに、未だに連絡も来ず、姿も見えずにいるとは。
 考えたくはない事だが。あの狸は、本当に後詰めとしての役割を担ってくれるのか。もしや、わらわ達を裏切るつもりなのではないか。
 最悪が次々と手を伸ばし、じわじわと首を絞める様に絡まる。ぞわっと総毛立つと共に、徐々に呼吸がままならなくなってきた。
「姫様、如何致しましょうか」