戦妖記~小国の戦姫~

 京が美張に居ないとなった今、恐らく妖怪も介入してくるだろう。美張の付近に妖怪が漂っている姿が何匹も確認出来る。不思議と攻撃しては来ないが。わざとらしくこちらを窺い、獲物を狙う目を見せつけている。
 妖怪が介入としてくるとなると、厄介この上ないが。幸いにも、妖怪は人間にとって平等な危機じゃ。妖怪が人間側に立つと言う事はあり得ぬ。
 だが、依然として不利は変わらん。妖怪を上手くぶつけるだけでは、織田の軍勢をこちらは相手取れないであろう。
 故に、今回は今川の後詰めだけが頼りじゃ。直に、やって来る援軍で巻き返すしかない。
 早馬で戻って来た信好が言うには、一万以上を出すと申したらしいのだ。そんな大軍が来ると、こちらの不利も覆せると言うもの。
 今は援軍を待つしかないが。きっとわらわ達は勝てる、此度の戦も切り抜ける事が出来る。
 どうか見守って下さいませ、父上。母上。
 キュッと軽く拳を作ってから、部屋に入る。そしてスタスタと空いた真ん中を通って、高座に上がり、士気が高まっている家臣達を見渡す。
「いよいよ、わらわ達は織田とぶつかる!今までにない激戦となろう、命も落としかねない戦となろう」
 段々と語勢が弱まるが、家臣達は目に強い闘志を燃やしながら「構いませぬ!」と声を張り上げた。
「我らは姫様と共に最期まで戦いまする!例え、この命が尽きようとも!ここで散る事になろうとも本望にございまする!姫様と共に戦わせて下さいませ!」
 そして年長者である佐助がわらわの目をしかと見つめ、「姫様、いいえ親方様!」と声を張り上げた。
「いかなる戦況でも、我らは貴方様と共に戦い、最後の最後まで貴方様の刃となりまする!」
 佐助が宣言した瞬間、皆揃って叩頭した。
 その光景に、わらわの目がじわりと滲むが。グッと奥歯を噛みしめてから「わらわ達は」と言葉を呟く。
 するとわらわの言葉に下がっていた頭がゆっくりと上がり、六十の目が、わらわをしかと見据える。
「兵力差では負けているのは確か。じゃが、わらわ達はどんな不利からも勝ちを掴んできた。故に、此度も勝てる!皆の仇を討つのじゃ、怒りをぶつけろ!憎しみをぶつけろ!美張の力を思い知らせてやれ!」
「おおおおおおおおおおお!」
 三十人と少ない人数だが、低音の雄叫びは空気をびりびりと震撼させた。