「妖怪の京なら、より分かるであろう?人間には上も下もないと、皆平等なのじゃ」
「まあ、そうかもしれないですけどね。俺は、毎度申してあげていますが。一応貴方様は姫なんですから、もっと距離を作った方が良いのでは?」
 窘める口調で告げられるが、わらわもすぐに「毎度言うておるが」と同じ口調で返す。
「わらわ達との距離を厳格にすれば、不満を抱える者も出てこよう。
 じゃが、こうして同じ目線に立つとそうもなりにくい。現に、美張では一揆や打ちこわしが一度も起こっておらぬ。それは、こうしているおかげだと思うておるぞ」
 他国は一揆で手を焼いていると、よく聞くだろう?と腕を組み、ニヤッとしながら尋ねると、京は「まあ、そうですけど」と言葉を詰まらせた。
「他国と美張を同じにする必要はない。わらわはこうして民達が過ごす平和を見るのも、好きだしのぅ」
 家や出店から身を乗り出している民達に笑顔で手を振ると、嬉しそうな顔をして手がちぎれんばかりに振り返してくれる。
 わらわの様子で、京は諦め、軽くこめかみを押さえながら軽く嘆息した。
「だからと言って、お転婆をして良いと言う訳ではありませんからね」
「分かっておるわ」
「分かっていない節があるから、俺達が大変なんですよ」
「それが側仕えというものなのだ」
 京はその答えに「してやられた」と言う様に、口元を少し綻ばせて「成程」と呟いた。
「さ、京。祭りを楽しむぞ!まずはおはぎじゃ!」
「御意」
 そうしてぱーっと駆け出し、わらわは祭りの活気に飛び込んだ。
 それから五分も経たないうちに、わらわの腹は満腹になっていた。袴の紐がきついと感じる程、それはそれはたらふく食してしまった。
 手にも風車やら、巾着やらがぶらさがり、頭には狐の面。いかにも祭りを満喫していますと言う様な服装に変わっていく。
「うむ、祭りはやはり楽しいものだなぁ」
 上機嫌で言うと、京は「はあ」と呆れながら、頭につけてある狐の面を胡乱げに凝視した。
「狐って、人間から見たら・・・こんな顔なんですか?こんな変な顔が、俺達だと?」
「見たら、と言うか。古来から、こういう物だと決まっておるのではないか?」
「ふうん、そうなんですか。でも九尾狐として、狐代表して言わせていただくと。こんな顔をした奴は一人もいませんよ。俺だって、こんな顔じゃないですし?」