戦妖記~小国の戦姫~

 弱々しい語勢で呟くと、総介は苦笑を浮かべ「肩を持つ訳ではありませぬが」と答えた。
「あの様な惨状を起こせる奴ではないと言い切れる自信はありまする」
「それは、何故じゃ?」
 ひっくと大きくしゃくり上げてから、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を上げる。すると総介は袖でわらわの顔を拭いながら「それは勿論、拙者と同じ側仕え故」と飄々と答えた。
「側仕えだから違うと?」
「はい。奴は妖怪ですが、志は拙者等と同じ。姫様に絶対敵忠誠を誓い、姫様が嘆き悲しむ事はしないのです。未だかつて、京が姫様を悲しみに追いやった事はございませぬでしょう?」
 問われて、記憶を手繰っていくが。確かに、怒る事は多々あっても悲しむ事はなかった。
 わらわは記憶の粗を探しながらも、小さく頷くと、総介はいつもの様な笑みで「でしょう」と答えた。
「姫様は知らぬでしょうが。京は拙者にこう言った事がありまする。姫様を守る為には何でもする、命を失っても構わない。そして姫様の大切なものを全て、自分の手で守りたい。姫様が悲しむ顔は見たくない、と」
「京が?その様な事を?」
 聞いた事もない話に目が点になり、胡乱げに返した。
 京がその様な事を言っている所も見た事がないし、他人に自分の本音を告げる事もなかったから。
 だが、総介は「はい」と笑顔でしっかりと答えた。たった一言だが、「嘘ではない」としっかりと明言している。
「その時は妖怪が生意気を言うなと一蹴しましたが。その気持ちに嘘はありませんでした。故に、あの時の京の言葉に偽りはなかったと思い、京があの様な惨劇を起こせるかと、猜疑が生まれるのです」
「し、しかし。あの様な傷は人間には出来ぬ事であるし。頼晴だって、目の前で殺されたのだぞ。同じような傷を負わされて、京殿がやったと告げる頼晴の口封じに動けたのは、あの者しかおらんかった。そ、それに京の衣も、手も血塗れであったではないか」
「仰せの通り。京が下手人であると、証拠は揃いすぎておりますが。そこが不自然に思いませぬか。あまりにも出来すぎた証拠で、京がその様な失態を犯すかと思ってしまうのです。