キュッと緋天の柄を握りしめ、己の内にメラメラと燃え上がる士気を更に高めさせるが。
それを窘める様に、柔らかい風が前から吹き込んだ。わらわの長い髪をふわんと舞い上がらせ、頬を優しく撫でる。その選択は取らないでと、天が・・いや、父上達が引き留めている様にも感じた。
この選択は間違いではない・・はず。
フッと緋天の柄を握る手を弱めると、唐突に最後に見た京の顔が思い出された。
竹福丸は「殺したのは京ではない」と申した。竹福丸は嘘を申す奴ではないし、童とは言え、その観察眼は舌を巻く程じゃ。故に、京ではなかったのかもしれぬが。
京はわらわの目の前で頼晴を殺した。同じような傷を作り、無残に殺したのだから。京が全員を殺した・・はず。
疑いもしなかった事に、急に霧がかかり、確信が薄れていく。
あの傷は人間業ではない。竹福丸の話でも、人間をほぼ同時に殺したと言う事であった。故に、九尾狐である京ならそれくらい容易い事だろう・・・。
すると突然「姫様」と呼ぶ優しい声がして、わらわはハッとして振り向く。いつもの距離を保ち、その場に立っていたのは総介だった。
「あ、ああ。総介か」
現実に引き戻され、慌てて毅然とした態度を取り繕い、総介を見据える。
「何用じゃ」
「とても。とてもご立派でしたよ、姫様」
思わぬ言葉に、わらわは呆気にとられ、「え」と間の抜けた声を零す。
そしてその優しい声音と、優しい眼差しで、毅然とした態度がぐらりと揺らぎ、悲しみに押し寄せられ、あわあわと飲まれていく。
「げにご立派であられました」
再びハッキリと、優しく告げられ、涙腺が強く刺激された。だが、ギュッと奥歯を噛みしめ「もう良い!」と声を張り上げ、奥に押し潰されている毅然とした態度を何とか取り戻す。
「ざ、戯れ言を申すな!そんな事を言うておる暇があるなら、支度に戻れ!時間は迫っておるのじゃ!行け!」
涙を誤魔化す様に厳しく告げて、総介から視線を外す。
今、そんな優しい言葉を言われたら、堪え続けた涙が溢れてしまう。涙を家臣の前では流してはいけぬと言うのに。
自分を殺せ、涙を堪え、毅然としていろ。わらわは長となったのだから、いつもの様に総介に甘えてはならぬ、ならぬのじゃ。
活を入れる様に強く緋天の柄を握りしめると、「姫様」と総介の優しい声が聞こえた。
それを窘める様に、柔らかい風が前から吹き込んだ。わらわの長い髪をふわんと舞い上がらせ、頬を優しく撫でる。その選択は取らないでと、天が・・いや、父上達が引き留めている様にも感じた。
この選択は間違いではない・・はず。
フッと緋天の柄を握る手を弱めると、唐突に最後に見た京の顔が思い出された。
竹福丸は「殺したのは京ではない」と申した。竹福丸は嘘を申す奴ではないし、童とは言え、その観察眼は舌を巻く程じゃ。故に、京ではなかったのかもしれぬが。
京はわらわの目の前で頼晴を殺した。同じような傷を作り、無残に殺したのだから。京が全員を殺した・・はず。
疑いもしなかった事に、急に霧がかかり、確信が薄れていく。
あの傷は人間業ではない。竹福丸の話でも、人間をほぼ同時に殺したと言う事であった。故に、九尾狐である京ならそれくらい容易い事だろう・・・。
すると突然「姫様」と呼ぶ優しい声がして、わらわはハッとして振り向く。いつもの距離を保ち、その場に立っていたのは総介だった。
「あ、ああ。総介か」
現実に引き戻され、慌てて毅然とした態度を取り繕い、総介を見据える。
「何用じゃ」
「とても。とてもご立派でしたよ、姫様」
思わぬ言葉に、わらわは呆気にとられ、「え」と間の抜けた声を零す。
そしてその優しい声音と、優しい眼差しで、毅然とした態度がぐらりと揺らぎ、悲しみに押し寄せられ、あわあわと飲まれていく。
「げにご立派であられました」
再びハッキリと、優しく告げられ、涙腺が強く刺激された。だが、ギュッと奥歯を噛みしめ「もう良い!」と声を張り上げ、奥に押し潰されている毅然とした態度を何とか取り戻す。
「ざ、戯れ言を申すな!そんな事を言うておる暇があるなら、支度に戻れ!時間は迫っておるのじゃ!行け!」
涙を誤魔化す様に厳しく告げて、総介から視線を外す。
今、そんな優しい言葉を言われたら、堪え続けた涙が溢れてしまう。涙を家臣の前では流してはいけぬと言うのに。
自分を殺せ、涙を堪え、毅然としていろ。わらわは長となったのだから、いつもの様に総介に甘えてはならぬ、ならぬのじゃ。
活を入れる様に強く緋天の柄を握りしめると、「姫様」と総介の優しい声が聞こえた。



