戦妖記~小国の戦姫~

「わらわ達美張国は戦のない、平和な国じゃ。故に、戦をここですると言う選択は間違っているのやもしれぬ。だが、こんな事をされてまで守る平和なぞ、平和ではない。父上を殺され、母上を殺され、大切な家族を殺されて、それらの怒りを押し込み、黙り、平和に固執するのは筋違いと言うものよ」
 淡々と告げているわらわの言葉に、段々と熱が込められ、漂う空気を震撼させる。
「わらわは織田を許す事は出来ぬ!勝率が低かろうが、なんだろうが。織田に刃を向けて、美張の力を思い知らせたい!それには主等の力が必要不可欠じゃ!わらわに力を貸してくれ!」
「勿論にございます、姫様!」
 ザッと一斉に目の前で、全員が膝をついた。そして総介が、「姫様!」と声を張り上げる。
「家臣一同!姫様に命を捧げ、姫様の矛となりまする!」
 総介が声を張り上げて宣誓すると、家臣達が皆わらわに向かって、バッと深く頭を垂れた。
 わらわはその光景に、ジーンと熱く胸を打たれる。その思いが全身を駆け抜け、感慨に耽りそうになるが。グッと奥歯を噛みしめて、声を上げた。
「見事織田の首を取り、愛する者達への手向けにするのじゃ!戦うぞ!皆で戦い、織田を討ち、全国に美張の力を轟かせるのじゃ!」
 わらわの熱く、力強い言葉に「おおおおおお!」と雄叫びが上がった。
 少人数とは思えぬ声は、空気がビリビリと震撼させながら広がる。
 それは押し寄せる織田軍にも、恐らく聞こえたであろう。激しい怒りは、許さないと言う強い憎しみは、織田の軍勢を脅かすであろう。
 薄暗くなった闇の中で、わらわはしっかりと一人一人を見つめた。
「では、これより戦支度にかかれ!残された武器も、兵糧も全て使え!信好、お前は今川に早馬で知らせよ!話に乗る旨を伝え、援軍を送る様申しつけるのじゃ!」
「ハッ!すぐに!」
「以上じゃ、散れ!」
「ハッ!」
 皆、従順にバッと散り、己の役目に走って行った。
 あれほど悲しみに打ちひしがれ、心を壊し、もう二度と立ち上がる事が出来ないかと思ったが。持ちこたえ、粉々になった心を繋ぎ合わせたのじゃな。わらわの様に、織田への怒りと憎しみで。流石、美張の家臣達じゃ。
 わらわは動く家臣達を見てから、沈みゆく夕日に目を移した。
 例え少数でも刃向かってみせる。わらわが率いて、美張の強さを思い知らせてやる。