戦妖記~小国の戦姫~

 そしてわらわは家臣達の怒りを止めると、目で強く「続きがある」と、訴えていた竹福丸に「続きを」と促した。
「これを渡された後。明後日、ここに攻め入ると伝えよと言われ、某は眠らされました」
 明後日!となると、もうすでに美張に向かって奴らは向かってきておると言う事じゃ。美張の外で迎え撃つ事は不可能、且つこちらの兵力はここに居る者達だけ。
 織田の木瓜紋を睨み付ける様に紙に目を落とし、くしゃりと紙を持つ手に力が込められる。
「姫様」
 おそるおそるかけられる、弱々しい声に煮えたぎる思いに囚われていたわらわは、ハッとした。
「どうした、竹福丸」
「これを渡す様命じたのは、京殿でした」
 重々しく告げられた名前に、わらわは静かな激怒に燃えながら「やはりそうであろうな」と、冷徹に頷けたが。竹福丸は震える声で「しかし」と言葉を続けた。
 わらわはその言葉に、ん?と眉をひそめて、竹福丸の言葉に耳を傾ける。
「某には、あの方が京殿だとは思えませぬ」
 弱々しくも、力強く告げられた言葉に、わらわは「何?」と思い切り顔をしかめる。
「どういう事じゃ?」
 怪訝に尋ねると、竹福丸は「事の始まりから申し上げます」と切り出した。
「某はいつもの様に親方様の小姓として、側に付いておりました。親方様も奥方様も、いつも通り仲睦まじくお言葉を交わしておられましたが。突然、すとんと窓から京殿が舞い降りたのです。
 皆、突然やって来た京殿に驚きました。親方様もどうしたのかと尋ねられましたが。京殿が冷笑を浮かべたのです。ゾクリと背筋が凍る様な笑みで、恐ろしさを感じた刹那。親方様がどさりと倒れると、次に奥方様もどさりと倒れました。そして一拍遅れた様に、血が溢れ出し、血溜まりを作りました。拙者は恐怖のあまり外に飛び出しましたが。廊下に居た者も、部屋に居た者も。親方様と同じようにして、次々と倒れていかれました。父上も、母上も倒れるのを見て、某は涙が溢れ、足が止まりました。