戦妖記~小国の戦姫~

 嗚咽を漏らしながら告げると、お二人が相好を崩して手を取り合い、温かな光芒を歩いて行かれた。
 見送る様に顔をあげると。温かな橙色に染まった、実に美しい見事な夕焼けが広がっていた。爽やかな風も吹き、さーっと草花が揺れる。耳を澄ませば、守らねばならぬ美張の平和の音が聞こえてきたのだった。
 
五章 何度でも結ばれる想い
 そして丁重な弔いを済ませると、ある一人の子供が「姫様!」と叫びながら、厩舎から飛び出して来る。突然の童に、わらわ達は皆一瞬ぽかんとするが。すぐにハッとして「あれは!」と声を上げた。
「姫様!あの童、家臣柚木六郎竹藤(ゆぎろくろうたけふじ)殿のご子息にございます!」
 総介が叫ぶと、童はわらわの前で膝をつき、頭を垂れるが。わらわが「挨拶は良い!」と先取り、童を立たせる。
 年の頃は四つと若いが、整った目鼻達が竹藤によく似ていた。そして武の才は無かったが、とても聡明で利発。その頭の回転は大人顔負けで、成長が楽しみな者よと父上がよく仰っていた存在だ。
「確か、竹福丸と申したな?無事であったのか?!」
「某は伝令役として生かされ、眠らされた次第にございまする」
 悲しみに身を落としながらも、心を律し、毅然と状況を告げる竹福丸に、わらわは流石竹藤の子じゃなと心の中で感嘆した。
「生かされた、と言う事は。主は、この惨憺な出来事の一部始終を見ておる訳か?」
 わらわが尋ねると、竹福丸は少し肩を震わせながら「仰る通りにございまする」と告げ、袖に手を入れる。そして袖から出てきた、小さな紅葉の様な手は、紙を握りしめていた。
「これを姫様に渡す様、申しつけられました」
 恐る恐る差し出され、わらわはやや眉根を寄せてその紙を受け取る。二つに折り畳まれた紙は、すぐにぴらりと開く事ができ、中身が露わになった。
 そしてわらわはそれを見た瞬間に怒りが沸騰し、目を見開きながら、カタカタと震える。わらわの反応に、周りに居た者等も中身を見ると、愕然とし始めた。
「これは、織田家の木瓜紋!」「この惨劇は織田の仕業なのか!」「織田め、よくも!」
 織田の木瓜紋を見た者達は、皆織田への怒りを口々に発する。
 織田に対する罵詈雑言が飛び交うが、わらわが「黙れ!」と一喝し、ピタリと家臣達の罵詈雑言を止める。