戦妖記~小国の戦姫~

 わらわが背を向けた刹那、ザッと短く音が聞こえたと思えば。「京!」と叫ぶ総介の声が聞こえた。
 そしてゆっくりと振り返ると、もうそこに京は居なかった。
 わらわは立っていたであろう場所を見つめると、ツウと一筋、目の縁から涙が滴り落ちた。
 わらわ達は、こう言う運命だったのか。やはり人間と妖怪は相容れない関係なのだな。わらわは信じておったのに、こんな事にはならぬと。わらわはお前が・・・。
 グッと唇を噛みしめてから、緋天をスッと鞘に収める。そしてわらわは残された家族をしかと見つめた。
 わらわがこの者等を守らねばならぬ。まだ生きている者達を率いねばならぬ、国を守らねばならぬ。父上に代わり、わらわが長として立ち、皆を守るのだ。
 長たるもの、己を優先すべきではない。そう父上は仰っていた。殿だって、わらわにそう教え込んでくれた。
 だからわらわはこの悲しみも、辛さも、怒りも、絶望も。全てを飲み込んで、自分を殺してみせよう。
「裏切り者は去った。これより、皆で死者を弔う」
 重々しく告げると、「姫様」と総介が暗然とした声で呟いた。だが、そんな声を無視してわらわは言葉を続ける。
「話は後じゃ、今は死者の弔いを優先させる。一人一人丁重に運ぶぞ」
 有無を言わさぬ口調で告げると、嗚咽混じりの「ハッ」という弱々しい声が返ってきた。
 そして全員で城の外に下り、裏の空いた空間を掘り起こし、一人一人用の墓穴を作っていく。
 ざくざくと掘り進めていき、墓穴が出来ると、わらわ達は再び城内に入り、殺された者達を一人一人運び込んだ。
 お付きであった女房達を、世話になっていた家老達を。わらわの大切な家族達を。
 いつもは朗らかな笑みで「姫様」と呼んでくれていた者達であったが。今は姫様と呼ぶ事は愚か、あの輝かしい笑みを見せる事もない。
 その者等は斬られた苦しみや、何が起きているのか分からず唖然とした表情のまま、わらわを見つめるだけだった。
 変わり果てた姿に、思わず目を逸らしそうになったが。わらわはしっかりとその者達の顔を見つめ、目に焼き付かせた。
 最後を共に出来なかった分、無念な死を迎えてしまった分。彼らの最後は、わらわの胸に深く刻み込まねばならぬ。
 そうして家臣や女房を運び終わると、次に母上を運び込む。唇を噛みしめながら、母上の上半身に腕を差し込み、家臣達と共に運んでいく。